「宅急便」のネットワークで社会課題の解決に乗り出す!ヤマトエナジーマネジメントの「電力ビジネス」

ヤマトが電力小売り会社を設立

 

「宅急便のネットワークを活用して社会課題を解決するビジネスモデルを構築していく」─。このように語るのはヤマトホールディングス会長の長尾裕氏だ。誕生から半世紀を迎えた「宅急便」。当初は個人から発送された荷物を届け先の個人に届けるために生まれたサービスだったが、50年を経て今や荷物の発送者の約9割は法人となった。 

 現在では約2700の宅急便の営業所が全国津々浦々に張り巡らされている。また、セールスドライバー(SD)などが荷物を届ける際の効率的な配送ルートを導き出すシステムも自社で開発してきた。今回の舞台は物流の脱炭素化に向けた再エネ電力だ。 

 昨年1月、同社は再エネ電力などを提供する新会社・ヤマトエナジーマネジメントを設立。同社は太陽光発電を主とした電力事業と蓄電池を活用した電力マネジメントシステム事業の2つの事業を手掛けている。 

 なぜ宅急便を手掛けるヤマトグループが再エネ電力なのか。 

 ヤマトエナジーマネジメント社長の森下さえ子氏は「環境問題のほか、総発電力の約7割を火力発電に依存する日本の電力事情・中東情勢に伴うLNG(液化天然ガス)価格の乱高下、さらに電線網の老朽化など、電力という社会インフラに課題が山積している中、ヤマトグループの全国ネットワークを生かして地域で発電した再エネ電力を活用することで、物流の脱炭素化の推進と地域社会の発展に貢献できる」と話す。 

 現在、宅配便シェアの5割弱を占める宅急便のインフラは法人向け拠点数が約400拠点、宅急便の営業所といったラストマイルの集配拠点数が約2700拠点、社員数が約17万人、SD数が約5.4万人、集配車両数は約4.4万台(いずれも2025年3月現在)で、そのうちEV(電気自動車)は約6000台に上る(26年3月現在)。これらの既存インフラに再エネ電力を活用する。 

 ヤマトエナジーマネジメントでは全国各地のヤマトグループの拠点に太陽光パネルを設置し、そこで余剰になっている再エネ電力を有効活用している。各拠点で発電した再エネ電力を配送用のEVの充電に活用したり、拠点で使用する電力に活用する。また、地域にある小型の発電所から電力を調達し、それを、EVを使用する事業者に供給することも計画中だ。物流の脱炭素化に向けた取り組みと言える。 

 森下氏は「宅急便は小さい荷物をたくさん集めて大きなロットにして効率的に運んでいる。このノウハウを電力でも展開する」と強調。この際、重要になるのが電力のマネジメントだ。効率良く発電したとしても、その電力を有効に活用しなければ意味がない。実はヤマトグループでは、この電力の充放電を最適化するエネルギーマネジメントシステムを自社で開発している。 

「営業所では蓄電池を設置することで電力を貯められるようにし、集配業務終了後の午後7時から午後9時までのEV充電の消費電力量のピークを制御し、翌朝午前5時までに満充電するように電力コストを低減している」(同)。朝から夕方まで太陽光発電効率の良い時間帯にEVは集配業務で出払っているため、営業所の電力に使用するか、蓄電しておけば再エネ電力を無駄にしないで済む。 

 さらに「地域創生にもつながる」と森下氏。再エネ電力は各地域で小型の太陽光や水力、風力、地熱発電が分散して設置されている。これらの地域発電所の課題は、地域によって余剰電力が発生しているという点だ。そこで電力を買い取れる「ヤマトエナジーマネジメントが間に入ることで需要と供給の仲介役を果たすことができる」と話す。 

 

鳥取県米子市で再エネ電力の地産地消

 

 実際、昨年から鳥取県米子市の地域電力会社・ローカルエナジーと物流の脱炭素化に向けて、中国地方における再エネ電力の地産地消の取り組みを開始。中国地方で作られるバイオマス、太陽光、地熱、水力発電などの再エネ電力をヤマトエナジーマネジメントが買い取り、中国地方内のヤマト運輸の拠点に供給している。 

 もちろん、ヤマトグループが電力市場のルールに基づき、発電量と消費量を等しく保つための専門的な需給管理に関するノウハウまで持っていたわけではない。そこでヤマトエナジーマネジメントは発電大手のJERAグループと提携。電力需給管理はJERAグループに委託し、電力が足りない場合は電力市場から調達して安定供給している。 

 長尾氏はヤマトエナジーマネジメントを中心としたグリーン(環境)の領域で新たなビジネスの可能性が生まれていると話す。例えば、農地の上で太陽光発電を行い、そこで発電された再エネ電力を同社が買い取れば、農家には売電収入と農産物生産の収入が入り、買い取った電力はヤマトグループの施設やEVに使える。 

 こういったグリーン・モビリティ事業はヤマトグループが次なる成長の柱に据えている領域だ。森下氏は「民間企業でありながら社会的インフラとして全国に物流ネットワークを持っているのがヤマトグループの強みだ」と話した上で「荷物を運ぶだけではもったいない」と語る。 

 自らの経営資源をいかに活用するか─。「宅急便の会社」と言われるヤマトグループが物流のインフラを電力や地域創生といった社会課題の解決につなげる取り組みは新たな企業像を描く初めの一歩となりそうだ。

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