【 イラン攻撃による原油高騰の余波 】第一ライフ資産運用経済研究所首席エコノミスト・熊野 英生

トランプ大統領によるイラン攻撃が、原油高騰リスクとして日本経済に打撃を与えている。政府は、当面、備蓄原油の取り崩しで対応する構えであるが、戦闘が長期化すると次第に石油製品の生産活動にも悪影響が起こるだろう。問題は、原油供給の量的制約と価格上昇の両面にある。当面は、備蓄放出によって量的制約は緩和できると思うが、流通段階では中間財を早めに在庫確保したいという動きもある。いわゆる買いだめのような動きが、流通の目詰まりを生じさせている。例えば、汎用樹脂の材料には供給そのものに障害はないものの、塗料やシンナーなどは一部に入手できないようなことが起きている。二度の石油危機によって、日本は備蓄法を整備したが、この備蓄義務は専ら燃料であって、プラスチック製品は念頭に置かれていない。そのため、プラスチックをつくるためのナフサが足りないという騒ぎがある。高市首相は、ナフサの在庫が4カ月分あるから大丈夫だと沈静化に動いている。それでも、まだ流通段階でのサプライチェーンには目詰まりがあるようだ。

 このサプライチェーンの障害は、国内だけではなく、海外調達でも少し不安視されている。化学品の場合、約2割はアジアなど海外から仕入れている。もしも、アジア諸国で在庫が乏しいという状況になれば、アジアの生産が滞ってしまい、日本への供給も減ることになりかねない。

 次に、価格上昇はどうだろうか。米国とイランは停戦協議を継続しているが、仮にそれがうまく運んでも、原油価格の高騰はそれほど早くは改善しないだろう。そもそも、イラン攻撃前の原油市況は60ドル台(例えば2025年平均でWTI 65ドル)だった。当面、その1.4~1.5倍のコスト増が見込まれる。タイムラグのある消費者物価の段階で見ると、2026年内まで各種製品の値上げが続くとみられる。

 中小企業の場合、価格転嫁はそれほど容易ではない。中小企業庁のアンケートでは、エネルギーの価格転嫁率はまだ50%を切っている(最新25年9月時点)。転嫁ができない分、企業収益は悪化する。中小企業の声を聞くと、2025年後半に値上げの活動が山を越したと思ったら、また26年にかけて次の値上げをお願いする必要に迫られたと言っていた。この利益圧迫は、今後の中小企業の賃上げにも足かせとなる。石油製品のすそ野は広いので、素材業種から加工業種、そして、小売・サービスへと値上げの波が再び押し寄せるだろう。

 政府は、ガソリン補助金をもって物価高対策を講じていると言うが、サプライチェーンの値上げ圧力はどうしようもない位の勢いで進もうとしている。仮に、物価上昇の勢いに対抗できるとするならば、それは日銀の利上げによって円高圧力を生み出して、輸入物価の上昇を抑えることくらいしかできないかもしれない。