
100人が集まる拠点を開業
「労働人口に伴って工場での労働生産性の向上が求められている。その中で、ロボットにセンサーを搭載することによって、人間の経験や勘といった暗黙知の可視化にもつながると見込んでいる。現場に導入して初めて分かることもあるため、まずは実践していくことが重要だ」─。こう語るのは医療用漢方薬で国内大手のツムラ執行役員生産本部長の熊谷昇一氏だ。
医療用漢方薬で8割超というシェアを握る同社。国内の売上高は20年間で約2.3倍の約1600億円に伸長し、数量ベースでは約2.8倍になっており、国民医療に広く浸透してきている。しかし、漢方需要の増大とは裏腹に生産年齢人口の減少に直面。医療用漢方製剤は129処方と多岐にわたっており、生産現場では人手不足が慢性的な課題となっていた。
もちろんツムラでは既に製造全工程で自動化設備や産業用ロボットを導入済みだが、その一方で熊谷氏は「漢方製剤の需要増に対応するためには15%の生産増強が必須だが、労働力確保が課題となっていた」と語る。そこで同社が検討していたのが「既存ラインのレイアウト制約などをヒューマノイドロボットで解消する」(同)というものだ。
そんな中でツムラはあるコンソーシアムへの参画を決めた。AIでロボットなどを動かす「フィジカルAI」、つまりはヒューマノイドロボットの社会実装を目的とした新団体「J-HRTI」だ。
この団体はたこ焼き器や扇風機などオリジナルの家電製品などで有名な機械商社の山善が主体となったコンソーシアムで、産業向けに特化したフィジカルAIの実用化を目指す団体。民間企業のみで構成されるコンソーシアムとしては日本初だ。
同コンソーシアムには山善とツムラのほか、食品加工機械メーカーのレオン自動機、ヒューマノイドロボット専用プラットフォーム開発のINSOL-HIGHで構成。今年7月には千葉県内に日本初となる専用のデータ収集施設を開業する。この施設はロボットが動作を学習するために必要な動画などのフィジカルデータを集める施設となる。
こういったデータは「各現場のノウハウに直結する極めて秘匿性の高い情報だ」(インソルハイ代表取締役の磯部宗克氏)。いわば〝匠の技〟とも言える。これをどうロボットに移植するかがポイント。山善、ツムラ、レオン自動機などが参画したことで、製造や物流に絡む具体的かつ玄人ならではの動作データを集めることができる。しかも、日本が得意とする高品質なものづくりのデータだ。
人がヒト型ロボットに動きを教える
実際、この「フィジカルAI・ロボットデータ収集センター」の中では、中国製のヒューマノイドロボットを最大50台導入し、ロボットに動きを教え込むオペレーター50人に加え、収集したデータを解析するアノテーター(AIや機械学習で使うデータに注釈を行う専門の作業者)などを含め、約100人のスタッフが常駐予定だという。
ヒューマノイドロボットは米国や中国をはじめ、世界各国で開発競争が激化している。国内でもファナックや安川電機が米エヌビディアと提携し、GMOインターネットグループが国内最大の研究開発拠点を開設するなど、国内外で業種の垣根を超えた取り組みが始まっている。
課題は参画企業の増加
しかし、ジェイ ハーティがこれらの取り組みと一線を画すのは、実際の現場での作業の動きをヒューマノイドロボットに教え込むことができるという点だ。生産現場や製造現場を持っている企業が参画していることで、それが可能になる。オペレーターがロボットと動きをリンクさせ、実際に対象物を掴んで移し替える動作をシステムに学習させた後、取得した学習データを基に、今度はヒューマノイドロボット自身が自律的に対象物を認識して移し替えていく。
磯部氏は「セキュリティや競争力の観点から、海外データの活用や海外基盤へのデータ提供は現実的ではない。日本国内において安全にデータを蓄積し、実務に基づく学習モデルを構築できる独自の基盤が必要不可欠だ」と強調する。
食品加工機械メーカーの業界では、ツムラと同様、一定程度は機械化が進んでいるものの、依然として人間が介在する工程が多く残っている。レオン自動機常務執行役員生産本部長兼ロボット事業担当の堺義孝氏は「食品製造における人手不足解消のために、食品製造用のフィジカルデータをつくり、ヒューマノイドロボットの社会実装に尽力したい」と語る。
山善は電化製品の製造以外にも、部材調達から製造ラインの自動化も手掛けており、協働ロボットや自動搬送ロボットなどを絡めたソリューション提供にも事業を拡大させている。専任役員 トータル・ファクトリー・ソリューション支社長の中山勝人氏は「3000社の仕入れ先を持つ当社のネットワークを使って高品質なデータ収集に貢献したい。現場で使えるヒューマノイドロボットを産業界に先立って供給し、ものづくり・日本の復権を目指す」と意気込む。
課題は参画企業をどれだけ集められるかだ。参画を検討中の企業もあるが、現状は4社のみだ。フィジカルAIの市場規模は30年には日本国内で15兆円、35年にはグローバルで200兆円になると予測されている。
ものづくり・日本の強みをフィジカルAIの世界でも発揮できるかどうか。ジェイ ハーティの構想力と実行力が試される。
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