独・Infineon Technologiesは12月3日、都内でOktoberTech Tokyo 2025を開催した。12月にOktoberというのもちょっと時季外れな感はなくもないが、ドイツでおなじみOktoberfestに同社の説明会も組み合わせたイベント。10年前にシリコンバレーで初めて開催され、日本では5回目を数える(2023年の模様はこちら )。
今年は本社CEOであるJochen Hanebeck氏を含む5人の上級幹部が来日したほか、ドイツ大使館一等書記官のFabrizio Micalizzi氏のオープニングからスタートし、Hanebeck氏の基調講演とパワーエックスCEOの伊藤正裕氏の招待講演、Hanebeck氏と伊藤氏によるパネルディスカッションなどが行われた。そして休憩を挟んで4本の招待講演のメインセッションとGaNロードショー(同社のGaN技術に関する集中セッション)が並行して行われ、さらにOktoberfestが行われるというなかなか長丁場のイベントであった。この中でHanebeck CEOの基調講演と、プレス向けに行われたRobotics Businessに関する説明をレポートしたい。
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左からJochen Hanebeck氏(CEO)、Adam White氏(Division President, Power&Sensor Systems)、Peter Schaefer氏(EVP&Chief Sales Officer, Automotive)、Philipp Schierstadt氏(EVP&Chief Sales Officer, Consumer, Computing, Communication)、Domink Bilo氏(EVP&Chief Sales Officer, Industrial and Infrastructure)。一番左は神戸肇氏(インフィニオンテクノロジーズジャパン代表取締役社長兼オートモーティブ事業本部 本部長)
CEO・Hanebeck氏の基調講演
まずはHanebeck CEOの内容を簡単にご紹介したい。AIが昨今の産業界(半導体業界のみならず全般)に大きなインパクトを与え、変革を促しているのは周知の事であり、このためにAIインフラ整備に膨大な投資が行われているという現状があるとした上で、それを実現する際には膨大なパワー半導体のマーケットが広がるという現状をアピール。ベースになるエネルギー源として再生可能エネルギーが有望という話に触れた。
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敢えて斜に構えて言うなら、EVの失速でパワー半導体マーケットの先行きが怪しくなっていたのが、AI Datacenterの興隆でなんとか持ち直したという格好か。とはいえ、EV向けに有望視されていたSiCが急速に萎み、代わりにGaNが持て囃されるといった形で変化はあるので、SiCに一点賭けしていたメーカーには厳しい状況ではあるのだが。(提供:Infineon Technologies)
これはどういう話かというと、太陽光でも風力でも良いのだが、火力とか原子力と大きく違うのは、定常的に電力を生み出せないという事。例えば太陽光は昼間しか発電が出来ないので、適切な蓄電ソリューションと組み合わせて使う事になる。この蓄電ソリューションに同社のパワー半導体が使われる、というのがInfineonにとっては新しいビジネスの種になるという訳だ(だからこそ、Hanebeck CEOの基調講演の後で蓄電器ビジネスを立ち上げているパワーエックスの招待講演が行われた訳だ)。
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エネルギーコストは当然地域によって変化は大きいのだが、ちょっと気になるのはこのSolarは寿命を迎えたパネルの廃棄コストもちゃんと計算に入れてるのだろうか?ということ。(提供:Infineon Technologies)
話を戻すと、昨今のデータセンターの高密度化に伴うラックへの電力供給にちゃんと追従できることに触れた後で、実際に試算するとその600kW~1MWのラックには同社のパワー半導体が大量に使われることが期待でき、その売り上げは250kWラックで12000ドル~15000ドル、1MWラックでは10万ドル以上にもなるとしている。これは同社にとって非常に大きなビジネスチャンスになる訳だ。
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ところで2027年の600kW/rackというのはNVIDIAのRubin Ultraを搭載するKyber Rackを念頭に置いたものだが、本当にNVIDIAは2027年にRubin Ultraを出荷できるのだろうか?(そしてその消費電力は600kW/Rackで収まるのだろうか?)(提供:Infineon Technologies)
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Infineon以外にも多数のパワー半導体メーカーがここに参入しようとしている理由はここにある。例えば1GWのデータセンターには、ラフに言って1000本位のラックが入る訳で、将来的には1億ドル以上の売り上げが見込める訳だ。これはかなり大きなインパクトである。(提供:Infineon Technologies)
次に話はEdge AIに移った。先程までの話はCloud AI向けのインフラ向けであるが、Cloud AIとEdge AIは相反するものではなく、そしてEdge AIはこの先広範に広まって行くとし、ただしその為には必要な条件があるとする。こうした条件がそろっている同社の製品は、今後のAGIやPhysical AIへの準備が整っているとしており、その代表例としてSDVを取り上げた。SDVの実現のためには車両アーキテクチャの変更が必要としており、こうした部分で同社の製品ラインナップは制御と電力管理の両面で貢献する、とした。
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この話そのものは別に不思議ではない(提供:Infineon Technologies)
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ここに関しては、特にMCUの充実に関しては結果的にInfineonがCypressを買収した事が大きく効いていると思う(提供:Infineon Technologies)
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例えばセキュリティなら耐量子暗号への対応が済んでいる事が要件に挙げられた(提供:Infineon Technologies)
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この流れは業界的には一般的なもの(提供:Infineon Technologies)
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最近ArmはSDVの先にADV(AI Defined Vehicle)があるとか言い出しており、日本とドイツが共に自動車に強い事も鑑みると適切な題材ではある。(提供:Infineon Technologies)
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左が情報(制御)フロー、右が電力フローとなる(提供:Infineon Technologies)
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自動車もEdge AIの一種であることは間違いなく、この図で言えば中央のADAS向けのCentral Computer以外のすべての部分にソリューションをうまく提供できているとする(提供:Infineon Technologies)
ロボティクス分野に関するPress Conference
この基調講演に先立って、Adam White氏によるロボティクス分野に関する取り組みの説明が行われたので、次にこの内容をご紹介したい。
まずロボティクス分野も現在急速に伸びており、その理由としては労働人口の減少やコストの上昇というニーズと、AIoTからPhysical AIに向かいつつあるというシーズがうまくかみ合った結果である、としている。この中で同社が期待しているのはヒューマノイドロボットであり、2050年までに最大1兆7000億ドル規模、と推定されているそうだ。このヒューマノイドロボットは要求される項目は非常に多い。全体の制御はPhysical AIの出番だとしても、ボディの各部位の制御や安全性、エネルギー効率など様々な問題点を解決する必要がある。
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Robotとひとくちに言っても分野別に普及台数は大分異なるし、成長率も異なるが、全体として有望なマーケットであると同社は見ている(提供:Infineon Technologies)
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といっても今すぐ介護ロボットが作れるという訳でもなく、そうした高機能なロボットの構築に向けてマーケットが少しずつ進化している、という状況である(提供:Infineon Technologies)
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どうしてここに注目するかといえば、半導体を猛烈に使うから、という話でもある(提供:Infineon Technologies)
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有線ロボットという訳にも行かないだろうから、やはり電池内蔵で駆動される以上、エネルギー効率を高める事で電池寿命を延ばすことは必須である。あとモーター駆動なので軽いほど電池寿命が伸ばせるし、安全性の観点からも軽量化が必須、など相互の要素は絡み合っている(提供:Infineon Technologies)
この問題に対し、Infineonは4つの機能ブロックに注力する形でソリューションを提供して行くとする。White氏によれば、実はロボティクスはAutomotiveと共通する技術もいろいろあるので、Automotiveの経験をそのまま反映させられる部分もある。そのうえで、ロボティクスに必要なMCUやPowerに関してはすでに豊富な製品ラインが提供されており、実際に同社が提供するさまざまなコンポーネントがロボティクスに利用できるとしている。
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より正確に言えば、この4つの分野しか今のところソリューションが提供できないという話でもある(提供:Infineon Technologies)
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現状問題なのは、セキュリティとか安全性に絡んで機能安全的な規格が本来は必要だが、それに相当するものが存在しないということで、それもあってISO26262とかIEC61508といった、他の分野向けの機能安全規格をベースに各社構築しているあたりらしい(提供:Infineon Technologies)
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Computeに関して言えば、この先AIをフルに使うような実装は手が出せないが、アクチュエータの制御とかセンサーの取り込みなどのレベルに必要なComputeに関してはすでに十分に提供できる状況にあるとする(提供:Infineon Technologies)
実は現在Infineonに関しては、ロボティクスに対応した専用のチームが結成されているとされる。SCT(System Competency Team)と名付けられたこのチームは、ロボティクスがこの先大きなビジネスになって行く中で、どんな機能が必要とされ、それに対してどういうソリューションが提供できるか、という言わばビジネスの道筋を作るのが目的であり、各分野のエキスパートなどを集めた小数のチームが、今はいわばビジネスの要件定義を行っている段階のようだ。
例えばBMS向けのソリューションがロボティクスにも使えるとか、最近ではGaNがロボティクスに非常に有望といったトレンドが見えてきているとする。このGaNはなぜか、というと、効率性と省サイズ性に優れているからだという。
例えばヒューマノイドロボットの場合には手を構成する要素(つまり指と手の平の関節部分)には全部モーターが入って駆動する事になる。こうした指の関節を駆動するモーターは、肩関節とかに比べればそこまで大きなパワーは不要だが、その代わり指が無駄に太くならないように小さなモーターが要求される。効率性を考えればそのモータのドライバもモータのそばに置きたい(でないと電力配線が膨大な量になる)が、当然こちらもモータ同様省サイズが求められるし、あまり発熱が多いと支障がでるのでなるべく変換効率が高い事が求められる。結果、GaNベースのドライバが現時点では一番適当、という話になるのだという。なにしろモーターの数は多い(Infineonの予測では、ヒューマノイドロボットには70以上の関節(=70以上のモーター)と最大600余りのパワースイッチが装備される可能性があるとする)。こうしたものを積み重ねてゆくと450ドル程度の売り上げに繋がる、というのがInfineonの想定だそうだ。
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腰とか脚などの高出力が求められる部分には強力なモーターが必要で、あるいはSiCベースの可能性もあるのかもしれないが、ほとんどはSiないしGaNという事になりそうだ。(提供:Infineon Technologies)
まだビジネスとしてどこまで成長するかははっきりしない部分はあるが、少なくともInfineonはここにチャンスを見出しており、そして現状日米中がこのロボティクスにかなりの投資をしているという事で、ここに向けてInfineonもいろいろソリューションを検討中という話であった。


