4K(約-269℃)の環境では、ほとんどの電気光学材料は機能しなくなるが、ベルギーimecの研究チームは極低温環境下でも低光損失で優れた電気光学性能を発揮するチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)薄膜の開発に成功した。詳細は米国の学術雑誌「Science」に掲載された

量子コンピュータと検出器は絶対零度に近い温度で動作するが、そうした極限状態の光の効率的な制御は室温動作の材料では困難とされている。一方、この制御特性は、電気光学ネットワークにおける情報の符号化、ルーティング、変換に不可欠で、すでに室温環境ではデータ通信などに利用されており、極低温量子リンクにも利用されるようになってきている。

今回の研究でimecの研究チームは、 ベルギーのルーベンカトリック大学(KU Leuven)およびゲント大学の研究者たちと共同で、一般的な結晶であるSrTiO3を再設計し、極低温で高い性能を発揮させる方法を報告した。

具体的には、4Kにおいて350pm/V近くの電界を印加した際に材料の屈折率がどれだけ変化するかを示す指標であるポッケルス係数を実証したとする。この値は4Kにおける薄膜電気光学材料としては最高の値であり、極低温では、ほとんどの材料は性能が低下するが、開発されたSrTiO3薄膜は、その逆の効果を発揮し、より小型で高速な電気光学部品を実現する可能性が示唆されたとする。

予想もしなかった強力なポッケルス効果

重要なのは、限られた光損失でこの性能を達成したことだと研究チームでは説明している。この高い電気光学強度と低損失の組み合わせは、光子の無駄が少ない小型デバイスを構築できることを意味し、これは量子システムにとって不可欠である。

研究の責任者であるimecのクリスチャン・ハフナー氏は、「量子常誘電体を極低温強誘電体薄膜に変換することで、予想もしなかった強力なポッケルス効果を明らかにした。これにより4Kにおける小型で低損失の電気光学部品に向けた材料開発の道が開けた。これは原子スケールの材料工学がデバイスレベルのブレークスルーをどのように実現できるかを示す例である」と述べている。

この基礎研究の価値についてimecでは、最終的には超伝導プロセッサと光ネットワークをつなぐ可能性のある次世代の量子相互接続、変調器、および変換器の開発につながると説明している。

  • 研究成果

    a)シリコンウェハ上に成長した200mmのチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、b)SrTiO3の単位格子をマッピングできる結晶性を強調した老化型電子顕微鏡像、c)高い結晶性により記録的なポッケルス係数が測定された (出所:imec)

スタンフォード大との研究成果も掲載

今回の成果は、米スタンフォード大学とミシガン大学の研究チームが主導し、極低温チタン酸ストロンチウムを調整することで4~5Kにおける電界への応答を強力に調整可能にできることを示した「Quantum critical electro-optic and piezo-electric nonlinearities」と題する別の研究と併せてScienceに掲載された。

imecは、いずれの研究にも参加しているが、どちらも極低温下でチタン酸ストロンチウムの性能を高め、制御できることを示し、フォトニックチップの製造に適した低損失のウェハスケール薄膜に組み込む方法を明らかにしたものと言え、論文著者たちは、この成果を活用することで、量子フォトニクス向けのより小型で高速な電気光学部品が実現できるようになる可能性を示唆している。