半導体の高性能化を支える先端パッケージング技術

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)とオーク製作所は8月26日、NEDOの委託事業「省エネエレクトロニクスの製造基盤強化に向けた技術開発事業」の一環として取り組んできた半導体製造装置の高度化の成果として、オーク製作所がフォトマスクを使用せず、高い解像度と位置合わせ精度を実現できる後工程向けダイレクト露光装置を開発したことを発表した。

  • 開発されたダイレクト露光装置試作機の1/20モデル

    開発されたダイレクト露光装置試作機の1/20モデル

半導体の高性能化を支えてきたプロセスの微細化は物理的な限界に近付きつつあり、新たな性能向上手法としてチップレットをはじめとする複数の半導体ダイ/チップを1パッケージに集積する先端パッケージ技術の活用が進みつつある。こうした複数のチップをさらに組み合わせていくためには、垂直方向の各層の位置を正確に合わせるアライメント技術、隙間なく重ね合わせる接合技術、積層したチップを高精度で相互に配線接続する技術などの進化が求められている。

日本半導体産業の成長をNEDOが支援

NEDOはそうした状況を踏まえ、半導体製造装置の高度化に向けた技術開発を推進してきた。今回の事業もそうした取り組みの1つで、2022年度から先端パッケージに求められる微細回路パターンを焼き付ける露光装置のうち、回路パターンを転写するための原版であるフォトマスクを使用しないダイレクト露光装置の高度化に向けた開発をオーク製作所と共同で進めてきたという。

ダイレクト露光装置は、フォトマスクの設計や製造にかかる時間とコストを削減し、先端パッケージの開発期間の短縮や量産時のプロセス効率化を可能とすることが期待されているが、先端パッケージの製造に適用するには、配線を微細化するための解像性や、正確な位置に露光するための位置合わせ精度の向上が必要であったとする。

当初計画から9か月前倒しで試作機開発を完了

同事業は、そうした課題を解決することを目的に2022年度から2025年度の計画で進められてきた取り組み。その主な目的についてNEDOの半導体・情報インフラ部 主査の野村重夫氏は、「半導体後工程、特に三次元積層ICを含むアドバンストパッケージの回路形成に適用可能な高解像・高精度ダイレクト露光装置の試作を行い、その評価を踏まえ、実用化可能なレベルの性能であることを実証すること」と説明する。そのための研究のポイントとして「微細回路の高度なつなぎ合わせ技術」「高解像度化、アライメント補正技術、オートフォーカス技術」「パネルレベルでの高精度・ 微細露光技術(総合評価)」という3種類の技術を開発する必要があったという。

また、開発ロードマップとしては、既存のダイレクト露光装置を活用した要素技術の探索を踏まえた実験機の開発とそうした実験機の開発と並行して、実用に耐える性能を有するプロトタイプ(試作)機の開発が進められ、2025年度(2026年3月)末までに試作機の評価を終える計画であったが、「市場からのニーズが強く、開発中に引き合いが30社ほどあった。一部の会社からは、もう開発を進めたいという要望もあり、NEDOからの予算の前倒しや人的リソースの投入などによって開発を加速。当初の計画よりも9か月前倒しで試作機の開発と評価を完了させた」(オーク製作所 CEO統括室 マーケティング担当 副参事の中澤憲治氏)という。

  • オーク製作所の中澤憲治氏

    オーク製作所の中澤憲治氏

なぜ先端パッケージにはダイレクト露光装置なのか?

現在、先端パッケージの配線形成にはキヤノンが提供するi線ステッパ(露光装置)など、従来は前工程で用いられていた製造装置が適用されるようになっている。これは、300mmウェハを活用する形で先端パッケージも製造されるためであることと、波長的に求められる加工精度的にちょうどよいからという2つの側面がある。

しかし、先端パッケージに対する将来的なニーズは、今よりも多くのチップを1パッケージに統合することを目的に、より大型な中間基板(インターポーザー)の活用が期待されている。その場合、300mmウェハからそうした長方形のインターポーザーを取り出そうと思うと、ウェハが円形であるがゆえに周辺部が使えなくなり、中心部から数枚取るのがやっとという生産性の悪化が問題になる。それを長方形の大型基板から取ることにすれば、その生産性が一気に改善されることとなる。

この大型パネルをパッケージに活用するPLP(パネル・レベル・パッケージ)技術については、SEMIが規格として510mm×515mmならびに600mm×600mmを推進しており、今回開発された試作機も510mm×515mmの有機樹脂基板に対応するものとなる。

ここで問題になるのが従来の300mmウェハ対応の露光装置では大型基板をそのまま受け入れることができないという点と、通常の露光装置ではフォトマスクを用いて、回路パターンを基板に転写するが、その場合、焦点深度が狭く、有機材の基材の反りや表面粗さに対応が難しいこと、ならびにチップとチップをつなぐブリッジチップが有機材特有の伸縮性に伴い、設計上の位置からずれてしまう「ダイシフト」の問題に対応が難しいという課題があり、フォトマスクを用いない直接描画(ダイレクト露光)を活用することで、そうした課題の解決を図ることが期待されている。

インターポーザーへのダイレクト露光はDMDを活用

半導体分野におけるダイレクト露光というと、ウェハへのパターン形成に対する電子ビーム(EB)を用いた手法が話題になる。先般、EUV露光装置のASMLからの輸入が米国の対中輸出規制の絡みで入手できない中国が、EUV並みの微細加工を可能とするEB露光装置(EBL)を開発したという話があったが、スループットが遅く、あくまで研究開発用途と表向きにはうたっている。

EBは、精度は高いが加工速度が遅いため量産には不向きであり、かつてニコンなども複数のEBを同時に使うことでスループットの向上を図ることを試みた(マルチEB)こともあったが、製品化までには至らなかった経緯がある。ではインターポーザーへの加工に向けたダイレクト露光にはどういった手法が用いられるのか。オーク製作所では、光源としては露光装置と同じh線もしくはi線を採用。これをプロジェクタなどで活用される極小ミラーを組み合わせたDMD(デジタル マイクロミラー デバイス)に照射することで露光を行う手法でスループットを確保したとする。

2つの光源を用意したことについて同社では「一部の層間絶縁材がi線では感光しないため、ニーズに応じて使い分けてもらえるように用意した」(同)と、顧客が使う材料ニーズに応じたためだとする。

試作機では露光ヘッドは3台用意され、各パターン同士の接続部のずれを抑制するために、まずは基板を設置するステージそのものの性能を向上させ、そこで残った誤差について計測を行い、つなぎ合わせの部分に対して制御系で補正する手法を考案。これにより、1μmクラスの微細な回路であっても、高度なつなぎ合わせを実現することを可能としたとする。

  • パネル全体での高度なつなぎ合わせ技術を開発

    パネル全体での高度なつなぎ合わせ技術を開発することでインターポーザーが大型化しても対応できるようになったとする

同社とNEDOの評価では、ターゲットである1μmの解像性を実現したほか、2μmのめっき配線を形成可能であることも確認したとする。

  • 2μmのめっき配線

    2μmのめっき配線、1μmの解像度を実現できることを確認

また、ダイシフトの問題解決に向けて、ブリッジチップが動いた状態を装置側で補正して、露光データにその回転のずれを合わせこんで補正する「ダイ・バイ・ダイアライメント補正技術」も考案。高精度な位置合わせ精度技術と組み合わせることで、ダイシフト問題を解決できることを確認したとするほか、カメラによるオートフォーカス機能を付与することで、有機材の表面粗さを計測して、露光に対するレンズの焦点位置を変更することで高解像度を維持する技術や、配線が密集している部分と疎の部分では疎の部分の液回りが良く、線幅が変動しやすいという問題に対する回路の粗密に応じた線幅補正機能も搭載するなど、高精度な加工を可能とする工夫も盛り込んだという。

  • 「ダイ・バイ・ダイアライメント補正技術」

    「ダイ・バイ・ダイアライメント補正技術」の開発によりダイシフト問題を解決

  • オートフォーカス機能による表面粗さの追随

    オートフォーカス機能による表面粗さの追随を可能としたほか、回路の粗密に応じた線幅の補正機能も搭載

このほか、同社では、ダイレクト露光時のデータ処理方法を一般的なビットマップデータに基づくラスター方式ではなく、グリッド上での始点と終点の座標値で表現するベクター方式を採用することで、回路が巨大化してもデータ容量を抑えられること、ならびに回路パターンのグリッドを細かくすることで、図形を滑らかに表現でき、細かな線幅補正が可能なことなどといった特徴も有しているとする。

  • 実際に製造された2μmの銅めっき配線加工が施された510mm×515mmのパネル

    実際に製造された2μmの銅めっき配線加工が施された510mm×515mmのパネル

2025年度中に商用機の出荷を計画

オーク製作所では、予定を9か月前倒しして試作機の評価が完了したことを受けて、当初の予定よりも早い2025年度中の商用機「SDi-1050h/2050i」の市場投入も決定した。すでに7月より受注を開始しており、初号機については台湾もしくは韓国のメーカーに納入される予定だという。

また、2026年度には300mmウェハ対応機ならびに310mm×310mmパネルに対応した先端パッケージ向けダイレクト露光装置「SDi-1030hi/1030h/2030i」の市場投入も計画している。300mmウェハ対応機は主に、現行の先端パッケージ向け露光装置の置き換えを狙うが、310mm×310mmパネル対応機はSDi-1050h/2050iに興味を持つ半導体メーカーや基板メーカー、液晶パネルメーカー、半導体材料メーカーなどでの活用のほか、研究開発用途で使いたいというニーズを受けて開発されているもの。SDi-1050h/2050iに310mm×310mmパネルを投入することは可能だが、コスト的にはあまりそうした使い方は見合わないとの見通しのほか、パッケージ基板向けにはそこまで高精度な加工ニーズはまだないこともあり、必要に応じて必要なサイズや加工精度に対応したダイレクト露光装置を購入してもらいたいと同社では説明している。

  • 試作機の性能評価を踏まえて2025年度中に提供される商用機「SDi-1030hi/1030h/2030i」

    試作機の性能評価を踏まえて2025年度中に提供される商用機「SDi-1030hi/1030h/2030i」に続き、2026年度にも300mmウェハ対応機や310mm角パネル対応機の投入も計画