近畿大学学長・松村到「とにかく元気のある大学に! 大学としての魅力で勝負していきたい」

「実学教育」で社会に役に立つ人材輩出を

 ─ 日本は少子化・高齢化で人口減に向かっている中で、大学経営も厳しさを増しています。今後の大学の目指す方向性について聞かせてくれませんか。

 松村 人口減、少子化・高齢化というのは、私立大学の経営において非常に大きな課題です。1990年前後には18歳人口は200万人近くいたのが、もう106人まで減っています。2024年の出生数は73万人を切り、政府の予想よりもはるかに速いスピードで少子化が進んでいます。

 現時点でも4年制私立大学の約6割が定員割れの状況にあります。幸い近畿大学は定員割れをせず、また志願者数も減ることがなく、昨年までは11年連続志願者数日本一を達成できました。

 ─ 今年の志願者数1位は千葉工業大学と聞いていますが。

 松村 そうですね。共通テストを使った試験で検定料免除などの施策をして、非常に人気を集めておられ、今年は、近大も負けてしまいましたね。

 ただ有難いことに、あるアンケートの結果では、近畿大学は「今注目されている、旬である大学」の全国1位、「改革力が高い大学」は西日本1位、「研究力が高い大学」「時代を切り開いている大学」で西日本私大1位に選ばれています。

 本学の建学の精神の一つは実学教育です。社会で役に立つことをしっかりと学んでもらい、社会に貢献する人材を世に送り出すということを目標にしていますので、その実績という点でも評価いただいていると思っています。

 本学の卒業式の著名人によるスピーチがユーチューブ等でも配信され毎年話題になっていますが、そういった活気あるイメージが若者に普及しているのかなと思います。とにかく元気のある大学ということが人気の秘訣かと。実際イメージだけではなくて、学生たちはものすごく元気です(笑)。

 ─ 現在の学生数は約3万4000人で、15学部ありますね。

 松村 はい。芸術から医学まで網羅する総合大学です。関西圏の学生が多いですけれども、関東など全国から来られています。キャンパスは東大阪のほか、奈良に農学部、和歌山に生物理工学部、大阪狭山に医学部があって、広島に工学部、福岡に産業理工学部がありますので、その拠点からもたくさんの学生が集まってきます。

 ─ オンデマンド授業の実施や、24時間開放の自習室など、時代に合わせて学生にとっての学習環境も整えていますよね。

 松村 できるだけ学生にとって良い環境を用意することをいろいろと先駆けてやっているつもりです。24時間利用可能な自習室は、女性専用室も含めて用意しています。やはり定期試験の前は特に集中して使われていますね。

 本学では東大阪キャンパスの近くに下宿している学生が非常に多いため、勉強と私生活をはっきり区別して、学校で勉強する習慣をつけてもらうという趣旨で始めました。メリハリある学生時代を過ごしてもらうために、いつでも使える場所として24時間開放しています。もちろんセキュリティ面もしっかりした学習環境を整えています。

創立100周年記念事業で医学部・近畿大学病院が移転

 ─ 今年11月はキャンパスの移転もありますね。

 松村 大阪狭山市から堺市の泉ヶ丘に医学部と近畿大学病院が移転します。  創立100周年の今年は、医学部・近畿大学病院の移転のほか、4月から建築学部(通信教育課程)を開設します。1年次だけでなく3年次編入も受け入れており、多くの皆様に出願いただいております。既に社会に出ている方で、2級建築士を取りたいという方のリカレント教育を兼ねており、安価な授業料で1級建築士受験資格が取れるということも、実学教育の一つかなと思っています。ものすごい人気で、うれしく思っています。

 また、近畿大学では、看護専門学校が医学部の横に従来からあるのですが、専門性の高い看護、国際性のニーズをうけ、来年4月には看護学部を設置予定です。  ─ 看護学部、移転後の病院についてもう少し説明してもらえますか。

 松村 はい。新しく設置予定の看護学部は4年制ですので、卒業後に看護師として働く以外に、例えば世界に出て保健医療に関わるといった新たな進路を切り拓くことができます。何年後かには、大学院も設置できればと思っています。将来の可能性をひらき、そして総合大学である近大らしい知識と知恵を身につけた看護師を輩出したいです。

 それから近畿大学病院では最先端のがん治療をさらに重点化して、より高度医療ができるように、ICU(集中治療室)やCCU(循環器疾患集中治療室)、手術室も増やす予定でおります。

 ─ ここでも日本最先端の医療をということになりますか。

 松村 新しい施設は最先端設備をそろえていますし、移転をすることによって関西国際空港が近くなります。将来的にはインバウンド(訪日観光客)の医療も担うことも視野に入れています。

 さらに、地域の方が快適に暮らせるスマートシティ化を推進するという目的で、2022年に堺市と包括連携協定を結んでいます。DXの時代ですから、病院の医療データも当然データ化する必要がありますし、おそらく今後、PHRといわれるパーソナルヘルスレコードが病気予防に重要となっていきます。

 これに備えてNTTグループとパートナーシップ協定を結んで、スマートシティやヘルステックの開発を進めています。今後AIに強いベンチャー企業などとも積極的に協働していきたいと考えています。

 ─ 自分たちの特徴を磨く投資は積極的に行うということですね。

 松村 はい。幸いにして志願者数も多く、入学定員も十分満たしている状況ですので、近畿大学の財務基盤はしっかりしています。それによってしっかり投資ができるということが強みでもあります。

 新学部の開設や優秀な教員・研究員の方を雇うということ、教育環境を整えるという投資をすることで、質の高い教育、研究を実施して、それを社会に還元し、また近畿大学のブランド力を上げていくという良い連鎖をつくっていきたいと思っています。

 ─ 学長に就任されて1年経ちましたが、いまどんなことを感じられていますか。

 松村 今まで医学の世界に籠っていた自分の視野が大きく広げられたという意識はあります。お会いする方も、これまでは医学関係者だけだったのが、一般企業の方ともたくさん知り合えるという点で、ものすごく刺激的な毎日ですね。

 わたしは今後、この近畿大学をもう2ランク上に押し上げたいと考えています。例えば入試の難易度でいえば、近畿でいうと京大、阪大、神戸大、私立は「関関同立」があって近畿大学、という位置付けと一般的には言われますが、近畿大学はこの枠にとらわれない新しい価値で勝負していきたいと。

 ─ 偏差値以外の軸でということですか。

 松村 ええ。大学のランキングというのが大学評価によく使われています。最も有名な英国の教育専門誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)の世界大学ランキングでは、近畿大学は西日本の私立総合大学では1位になっています。

 そういう意味でいうと、近畿大学のランキングは、既に「関関同立」の上にあるといってもいいと思います。近畿大学の学生の約半分は理系です。「関関同立」には医学部がなく文系学部が多い構成ですので、そこも大きく違う点だと認識しています。

 世界大学ランキングでは日本の大学はまだまだ弱いので、本学は現在のポジションをしっかりと維持し、さらに上げていきたいと思っています。

 ─ 改めて松村さんは阪大の医学部を卒業して、これまで近畿大学では医学部長もやられてきたわけですが、近大の医学部の特徴はどういうところにあると思いますか。

 松村 近大の医学部は、臨床力が非常に強いということですね。その臨床の何が強いのかというと、特にがん治療と心血管系が強い点が特徴だと思います。その2つの領域は日本の中でも最先端を走っています。

 それから、研究でいいますとHighly Cited Researcher(高被引用研究者)と言われる世界の全論文のうち引用された回数が上位1%に入る論文を複数発表した研究者が近畿大学病院に2名おります。全国でも2名いる大学というのは極めて少ないです。どちらもがん領域ですが、消化器内科の工藤正俊先生と、腫瘍内科の中川和彦先生が、研究の面で日本だけではなく世界のトップリーダーとして最高レベルの研究をしています。

 ─ がん治療の最先端ということですね。

 松村 はい。それと近畿大学病院の特徴としては、高度な救急医療を担うということで、3次救急は当然やっております。

 南大阪の医療の最後の砦として、そのエリアの患者さんの命を守る存在であると。南大阪エリアはそれほど病院が多いわけではないので、1次救急も2次救急も全ての救急患者様を〝断らない医療〟というのを心掛け、受け入れています。

 ─ 患者を断らないとなると、スタッフは多忙を極めますね。

 松村 多忙です(笑)。世の中では働き方改革が叫ばれていますので、タスクシフトや業務の効率化、労働時間の管理を積極的に行いながら、地域のニーズに応えています。しかし、南大阪から和歌山までとカバーしている医療エリアが広いので、スタッフの負担が重いのが現状ですね。

大阪・関西万博では、養殖魚専門料理店を出店

 ─ 水産研究所の〝近大マグロ〟は有名ですが、マグロの養殖もいま企業では全てのコストが上がり難しい局面に来ていますよね。

 松村 そうですね。近畿大学は2002年にクロマグロの完全養殖に成功しました。それまで東京ではほとんど知られていなかった近畿大学の名前が、全国で知れ渡る大きなきっかけになりました。

 しかし、いつまでもマグロだけに頼っていてはいけないということで〝マグロの次〟と言える何かを、大学を挙げて一生懸命探しております。

 ─ 新しい領域を開拓していくと。

 松村 はい。おそらく今、文科省は、全国にある大学を色付けしていると思うんです。個人的な予想ですが、例えば国公立大学でいえば、卓越大学なのか、地域で研究する大学なのか。私立大学は大学教育のみで、研究は一部の大学だけでいいというふうに色付けしていくのではないかと。

 その中で、卓越大学である東北大学やその候補である東京大学、京都大学、大阪大学と近畿大学を比べたら、総合的な研究力では勝てないのはよく分かっています。ですから、マグロに代表されるように一分野の中で世界に伍することができるものを持つことが、われわれの大学が目指すところかなと。

 ─ 得意技を持って磨きをかけていくと。

 松村 そうですね。例えば水産研究所の水産養殖技術は、われわれがパイオニアとして世界に広まった技術です。ですから、どの分野で卓越するのかというところを、各学部で考えていただくと。

 4月からの大阪関西万博では、2種類の魚を掛け合わせてそれぞれの長所をいかした、サラブレッド魚※「ブリヒラ(ブリ×ヒラマサ)」「クエタマ(クエ×タマカイ)」「キンダイ(イシダイ×イシガキダイ)」などを提供しています。サントリーホールディングスと協業し、「近大卒の魚と紀州の恵み 近畿大学水産研究所大阪・関西万博ウォータープラザ店」というお店を出店しました。

 振り返ると、50年前に開催した大阪万博では、「キッコーマン水中レストラン」に水槽を設置し、当時では非常に珍しかったマダイやハマチなどの人工種苗による養殖魚を本学の協力のもとで展示しました。今回は近大の研究成果である養殖魚を提供し、世界中の皆さんに食べて頂き驚きと感動を与えたいですね。

※「サラブレッド魚」とは、概念を簡潔に表現するために近畿大学が創作した言葉であり、学術的には交雑種といわれるものです。