ユニクロが2022年に開始したチャリティTシャツプロジェクト「PEACE FOR ALL」。これは、同社の「世界の平和を心から願い、アクションする」という趣旨に賛同したアーティストやデザイナーの協力の下でTシャツを作成し、その利益の全額を寄付するという取り組みだ。
これまでに、佐藤可士和氏や養老孟司氏といった著名人、錦織圭選手や平野歩選手といったスポーツ選手、ムーミンやPEANUTSなどが、チャリティTシャツのコラボレーションに参加している。その中で特異な存在とも言えるのが、2023年4月にTシャツを発売開始した、クラウド事業やCDN(Content Delivery Network)事業を手掛けるアカマイ・テクノロジーズ(以下、アカマイ)である。1社だけ企業としての賛同とコラボレーションを表明している。
見覚えのある方もいるだろうか。黒地に青文字でGo言語のソースコードが記載されており、「peace for all」の文字だけが白っぽいグレーで強調されているTシャツだ。
アカマイはプレスリリースの中で「このデザインに使われている『texture』というコードは、さまざまデジタル体験の裏側にある共通言語を表現しています」と紹介している。Go言語ということで、実際にコードを動かしてみたエンジニアも現れるなど話題を呼んだ。
なんと今回、ユニクロとアカマイのコラボレーション第2弾となるTシャツが6月20日に発売されるという。そこで、アカマイの職務執行者社長を務める日隈寛和氏に、第1弾Tシャツの反響や、第2弾Tシャツのデザインに込めたこだわりを取材した。
コラボレーションのきっかけは社会貢献の哲学
--ユニクロとアカマイのコラボレーションのきっかけを教えてください
日隈氏:もともとは2022年に、弊社CEOのトム・レイトン博士とユニクロの柳井正社長(当時)が面会する機会があり、その中で偶然「PEACE FOR ALL」の話が出たのがきっかけです。トムも柳井社長も、事業会社を経営する立場でありながら社会貢献を非常に大切にしているので、共感するものがあったのだと思います。
弊社は、マサチューセッツ工科大学の応用数学の教授をしていたトムと、その研究員だったダニー・ルインという2人によって創業されました。実は、ダニー・ルインはアメリカ9.11の事件で飛行機に乗っており、テロ事件の犠牲者となりました。
アカマイの技術の基礎となっている理論にダニーは大きく貢献しており、彼が亡くなった後も彼の功績や活躍を忘れないようにしようと、社内には「ダニー・ルイン・コミュニティ・ケアデー」と呼ばれる社会貢献活動に従事する月(月間)が設けられています。日本でもオフィス周辺地域の清掃活動や、海岸のゴミ拾いなどを行っています。
アカマイはビジネスとしてインターネット上の安心安全をお客様に提供していますが、それと同時に社会にも貢献しようとしています。こうした弊社の哲学や社会貢献の気持ちが、柳井社長に共感していただけたのだと思います。
--第1弾のデザインにGo言語を選んだ理由を教えてください
日隈氏:「PEACE FOR ALL」の話をいただいた際には、数学的な方程式や、シンプルな記号など、さまざまなアイデアが出されました。そうしたアイデアの一つとして、当社製品で実際に使われているソースコードを使うという意見が出されました。
アカマイから最初のデザイン案を提示し、ユニクロのデザイナーとのデザイン会議を重ねていきながらブラッシュアップし、最終的に製品に仕上げました。カラーバリエーションやデザインの候補が複数あったのですが、比較的スムーズに決まったのを覚えています。
第1弾のTシャツは予想以上の反響
--第1弾のTシャツの反響はいかがでしたか
日隈氏:当初はプログラミングコードを見て、エンジニアの方が「かっこいいな」と思ってくれれば良いと思っていたので、まさか実際にコードを打ち込んで動かす人が現れるとは思いませんでした。抜けている部分をAIに推測させて補完した人もいたようです。
もちろん、悪意を持った人が見ても影響がないコードを選んではいますが、そもそも本当に打ち込む人が現れたのは予想外です。
コラボTシャツは世界で同時に販売を開始したのですが、社内での一番大きな反響は、ソーシャルメディアに「シンガポールでもアカマイのTシャツが売っていたよ」と書き込んでくれた人が現れたことです。私や広報担当のスタッフが社内向けに情報発信をするよりも、社員が世界中のユニクロでTシャツを見つけた報告をする方が、はるかに影響が大きかったです。
さらに驚いたのは、都知事選出馬や岸田元総理の声を再現したAIボイスチェンジャーなどで話題となった安野貴博さんが、第1弾のTシャツを着ていたことです。テレビ番組などに出るたびに着てくださっていたので、社員も驚きました。
第2弾のコードは動くんですか?その意味とは?
--第2弾のTシャツのデザインコンセプトを教えてください
日隈氏:第2弾も第1弾とコンセプトは似ていて、テクノロジーカンパニーである当社らしさを象徴するデザインを選びました。第1弾のTシャツは黒色の生地でしたが、第2弾は「レトロホワイト」と呼ばれるオフホワイトです。これは、初期のMacintoshに代表されるような、インターネット黎明期のPC本体の色をイメージしています。
第1弾はコードが前面にありましたが、第2弾は背面です。その代わりに第2弾では前面の胸元にエクスキューション(実行)マークをデザインしていますが、このエクスキューションマークの中にあるハートマークがパフプリントになっているので、飛び出したような手触りです。このハートマークは、「PEACE FOR ALL」のPEACEや心のつながりをイメージしました。
背面のコードは、見る人が見ればすぐに分かるのですが、Bashスクリプトで記述されています。第1弾で実際にコードを動かしたエンジニアが現れたという反響を受けて、今回は「PEACE FOR ALL」のTシャツのためにデザインしたコードを使用しています。
--ということは、このコードも動くのでしょうか
日隈氏:それはぜひご自身の手とご自身の目で確かめてほしいです。第2弾のプレスリリースを発表した直後から、すでに挑戦している方もいるようです。
「PEACE FOR ALL」のコンセプトに合わせてTシャツを発売するので、ぜひ世界中の人に着てほしいと思います。第2弾は男女問わずに着られるデザインになったと思っているので、多くの人に届いたら嬉しいです。