TSMCが6月3日、台湾の新竹市で2025年の株主総会を開催し、同社の魏哲家 会長兼CEOが、2025年第1四半期にも建設を開始する予定であった熊本県(JASM)のTSMC第2工場(Fab23 Phase2)着工時期を「2025年内」に変更したこと、その理由を工場周辺の交通渋滞問題が深刻であることと説明したと複数の台湾メディアが報じている。
熊本第2工場の建設延期は、建屋の設計遅れや成熟プロセスの需要減退によるものと業界の一部からは見られていたことから、この発言を予想外とする向きもある。同氏は「以前は車で10~15分で移動できた場所に、今では1時間近くかかるようになっている」と工場周辺の状況を説明。「我々の工場が現地の交通渋滞に著しい影響を与えている。この点は地元住民の不満も大きく、問題である。日本政府にも交通状況の改善を求め、着工の遅れについての了承を得ており、状況が改善するまでは着工を延期することも日本政府に伝えてある」と、今後の見通しを示したほか、「第2工場の稼働開始を熱望している顧客(製造委託主)とも建設延期について説明して了解を得つつある」と、顧客の理解も進んでいることも述べている。
工場建設は地元住民からの賛同が重要
同氏は、昨年6月に開催した株主総会にて、日本での第3工場建設に関して、「すでに熊本県知事から要請を受けているのは事実だが、まず熊本での足場を固め、地元の協力を得て第1、第2工場の稼働が軌道に乗せるのが先決だ。熊本での水資源などの問題を解決したうえで地元の賛同が得られれば、第3工場の建設に着手するかどうかを検討するかもしれない」と回答をしていた。地元住民から地下水の枯渇や汚染を心配する声が高まっているいることを踏まえた発言だが、TSMCは、今回の交通渋滞の件も含めて、地元住民の同社に対する感情を相当気にしているようで、地元民の賛同が得られることが工場建設の条件としている。
2025年は20%半ばの成長を予測
また同氏は、米国政府が進める高関税政策について、「不確実性やリスクの潜在的影響が存在している。今後数カ月の間に全体の状況がはっきりするかもしれない」とし、情勢の推移を見守る考えを示した。一方でAI向け半導体の需要が高止まりしていることから、「(TSMCの)顧客の行動に変化は見られない」ことを踏まえ、「2025年のドルベースの売上高の成長率を前年比20%台半ばとする業績見通しを維持する」としたほか、利益については過去最高を更新する見込みであるとしている。
TSMCは、先だって2025年の設備投資額を380億〜420億ドルの間としていたが、今回400億ドル(約6兆円)を支出する予定であることを示している。
海外拠点の拡大でも技術は台湾
TSMCは、日本のほか、米国、欧州と台湾外の拠点を拡張しているが、自社の最先端技術は引き続き台湾域内に保つとの従来からの見解をこれまで同様示している。また、現代の半導体技術は高度に洗練されているため、世界中に工場を拡大しても、現地での技術流出を防げると確信していると同氏は述べており、「TSMCの技術は、1万人の研究開発エンジニアの努力と生産ラインエンジニアの継続的な改善の成果であり、もし簡単に盗まれてしまうなら、TSMCは今日のような存在にはなっていない」とその理由を説明している。
また、同氏は、TSMCが中東に投資するという憶測が市場に出回っていることに関して、「TSMCが特定の地域に工場を建設する際には、顧客のニーズを最優先し、政府の補助金も考慮する。半導体産業の形成は容易ではない。現在、半導体エコシステムを構築できるのは、世界中で米国、台湾、中国、欧州の一部と日本のみである。中東には顧客がおらず、エコシステムを構築することも不可能なため、中東に工場を建設することは基本的に不可能だ」と述べ、噂されているアラブ首長国連邦への工場進出を否定している。