名古屋大学および岐阜大学を運営する東海国立大学機構と富士通は5月23日、日本の社会課題であるドラッグ・ロスの解消を目指し、診療データを用いた治験候補患者選定の実証実験を実施し臨床研究における有用性を確認したことを発表した。

  • 実証実験の概要図

    実証実験の概要図

実証実験の概要

今回の実証実験では、名古屋大学医学部附属病院および岐阜大学医学部附属病院が保有する約1800人の診療データと生成AIを活用することで、診療データにおける非構造化データの構造化を約90%の精度で実現した。

構造化したデータをもとに過去に実施済みの3つの治験において治験候補患者のスクリーニングを実施したところ、合計42人が抽出され、そのうち実際の適格患者は27人含まれていたとのことだ。

診療データには医師による所見の記述など、そのままでは管理や分析に使うことが難しい非構造化データが多く含まれているため、治験候補患者の選定には医師が個々に診療データを確認しなければならず、治験の長期化が課題となっていた。

今回の実証実験の結果により、治験候補患者の選定にかかる時間を3分の1程度まで削減し医療従事者の迅速な意思決定を支援可能であることが確認され、患者が適切な治験へ参加する機会の向上が期待できる。両者は今後、取り組みの対象疾患や実施施設を拡大して精度向上に取り組むとともに、実際の治験での活用についても推進する。

実証実験の内容と成果

実証には、名古屋大学医学部附属病院および岐阜大学医学部附属病院が保有する2019年4月1日から2024年3月31日までの期間における乳腺外科の約1800人の診療データを使用した。

実証実験は2段階で実施した。1段階目では、診療データの非構造化データから生成AIによる被験者選定の対象となる項目を抽出。乳がんに関連する治験で必要なデータ項目一覧を作成し、構造化データと非構造化データに分類した。

医師記録や各種検査結果レポートなどの非構造化データに対しては、患者の病期や病態、病理・腫瘍評価といった項目を中心に、生成AIを用いて構造化を行い約90%の再現率を実現している。

2段階目では、構造化データを活用した治験候補患者のスクリーニングを実施。1段階目で構造化した全患者の診療データを治験リポジトリ(データベース)に集約し、過去に実施された乳がんに関する治験プロジェクト3件を対象に検証を行った。各治験の適格基準および除外基準に基づき、この治験リポジトリをスクリーニングした結果、計42人の治験候補患者が抽出され、そのうち実際の適格患者は27人だった。