NTTコミュニケーションズ(NTT Comは)は5月15日、山口県下関市で最終処分場を運営する住吉工業にノーコード時系列データ分析ツール「Node-AI」とデータサイエンティストによる技術サポートの伴走支援を提供し、住吉工業の担当者が最終処分場における放流水の水質を予測するAIモデルを開発することに成功したと発表した。

取り組みの背景

最終処分場で発生する排水の水質は環境省が定める放流基準を満たす必要がある。法律では月1回以上の水質の検査が義務付けられているが、住吉工業は自主的に水質日常点検を365日実施。具体的には、従業員がポータブルpHメーターを用いて7カ所の測定を行い、各地点のpH値と水温の結果をExcelで整理して水質変動を把握している。

こうした状況の下、休日勤務による作業員の負担、人件費の増大、作業が危険なことによる労災のリスクが課題となっていたという。

これらの課題解決に向けて、水質(pH)の予測値をデータからAIで予測し、従業員の派遣を決めることで休日勤務の削減を目指すことになった。しかし、データを活用できる人材がいないというハードルがあった。

  • 住吉工業による水質管理の人的コストを下げる取り組みの概要

「Node-AI」の活用でDXを自走

そこで、住吉工業の担当者自身が「Node-AI」を用いて2日後の水質(pH)を予測するAIモデルを開発することに取り組むことになった。NTT ComはNode-AIを提供するとともに、AIセミナー・伴走支援を通じてAIモデル開発とデータ活用人材の育成の支援も行った。

DXの自走は外注によるDXに比べ、「担当者が仮説検証を素早く回せる」「自社のドメイン知識をそのまま活用できる」「自社で行うので金額的コストが低い」「自社のDXの文化を醸成できる」といったメリットがある。

しかし、データサイエンティストが不在の住吉工業において、DXの自走は簡単ではない。そこを後押ししたのが、販売データ・IoTセンサーデータなどの時系列データに特化したノーコードデータ分析ツール「Node-AI」だ。ブラウザから登録するだけで利用を開始でき、無料プランから手軽に始められる。

2カ月でAIモデルを開発

今回、水質(pH)、気象などが含まれる1日ごとの測定データを基に、2日後のpHを目的変数(予測対象)とし、水温・外気温・雨量を入力としたAIモデルを開発した。その際、15年分のデータを学習し、2024年11月のデータを用いて評価した。

水質予測AIモデルの評価は、予測精度が±0.2以内の割合が80%以上で合格とし、±0.2以内の割合は87.5%となり、実用に耐えうることが立証された。

NTTコミュニケーションズ イノベーションセンター テクノロジー部門 プロダクトマネージャー 切通恵介氏は、今回の取り組みの効果は「水質予測」「人材育成」の2つの面で得られていると述べた。

  • NTTコミュニケーションズ イノベーションセンター テクノロジー部門 プロダクトマネージャー 切通恵介氏

水質予測については、休日出勤を完全になくすことで年間約504時間の労務時間を削減でき、年間100万円以上の人件費の削減効果が見込まれるという試算の結果が得られたという。

人材育成については、住吉工業の担当者自身がデータ分析を実施することに成功し、今後複数地点での水質予測を実施するAIモデルを自ら開発する計画を策定しているという。

住吉工業 環境産業部 オガワ泰舗氏は「将来的には、外部に依頼している水質分析結果や未来情報の気象データの取り込みを行い、IoTを活用したデータの自動取得も加え、リアルタイムで可視化することも目指したい」と語っていた。

  • 住吉工業 環境産業部 オガワ泰舗氏(写真左)

切通氏は「今後もNode-AIを中小企業のDXを進めていくが、伴走支援のコストが高く、多くのお客さまに提供が難しいという課題がある。そこで、教育機関向けの講義のノウハウ・経験を活用したeラーニングを開発し、ユーザーコミュニティによる相互育成やノウハウ共有を進めていきたい」と語っていた。