タウンページは130年以上の歴史を持つ職業別電話帳だ。その色から"イエローページ"として親しまれてきたが、2026年3月にその役割を終える。そのタウンページの後継サービスであるデジタル版「iタウンページ」への移行が現在、進んでいる。
「iタウンページ」は昨年10月、誰にでも使いやすく、地元のお店や企業と街の人々をデジタルでつなぐ総合ライフポータルとしてリニューアルした。
インターネットにはさまざまな情報があふれているが、ポータルサイトもたくさんある。そうした中、iタウンページはどのように差別化を図り、どんな戦略で臨むのか。NTTタウンページ代表取締役副社長の河口哲雄氏に話を聞いた。
電話帳の役割を引き継ぎ、総合ライフポータルサイト「iタウンページ」へ
iタウンページのリニューアルは、2026年3月の紙のタウンページ終了を受け、電話番号検索中心のインターネット電話帳の役割から、電話帳の利用者やインターネットに不慣れな方にも安心して使ってもらうために行ったものだ。
NTTタウンページは数年前から、ホームページサービスの「デジタルリード」、マーケティングデータの「タウンページデータベース」、ECやWeb広告などのメニューを持つデジタルマーケティングツールといったデジタル事業に軸足を移してきた。今回、地元を支える「総合ライフポータルサイト」として、iタウンページを新たに展開していく。
イメージキャラクターには多部未華子さんを起用し、「今後はデジタルマーケティング全般を守備範囲にしていく」と河口氏は意気込む。
特徴は「日本最大級の情報量、信頼性、エリア検索」
iタウンページが目指すのは「総合ライフポータル」だ。紙の時代の長所や資産を継承しながらも、データ量、信頼性、エリア検索などの特徴を備えている。
データ量では、「日本最大級」(河口氏)という約570万事業者を擁し、8000種の業種に細分化しており(2024年10月現在)、「iタウンページは圧倒的に情報量が多く、当社の価値は情報量自体にあります。収益のみにとらわれず、全ての事業者をiタウンページに掲載します」と河口氏は自信を示す。
信頼性もタウンページから受け継いだ強みだ。事業の実在確認、弁護士や病院など資格や免許の確認は、紙の時代の掲載基準を踏襲している。
検索機能にはオンラインならではの工夫を盛り込んだ。「ラーメン 新宿」といったエリア情報を含む検索ワードは目的が明確で、iタウンページの事業者への送客につながるため重視したという。「近所にこんな店があったんだという発見をお届けするため、エリア検索のUI、エリアと業種の検索で上位表示されるように工夫しました」と河口氏は説明する。
具体的には、検索エンジンにおいて「エリア×業種」で検索した際のヒット率を向上させるため、URLの階層構造など専門家の助言を得ながら、SEOを効果的に機能させるようにし、検索における上位表示を実現したという。
さらに、河口氏はiタウンページならではの特徴として、ビジネスとユーザーの双方で「誰一人取り残さないサービス」を目指すことも強調する。「類似サービスの多くは、支払い金額に応じて上位表示されるなど、リテラシーが高い事業者が掲載される仕組みが多い」(河口氏)という。これに対しiタウンページは、「地域の事業者の方に寄り添い、ご利用者との結びつきを促進する」をモットーとしている。
これらの特徴を踏まえ、「インターネット版の電話帳という要素を持ちつつ、総合ライフポータルという位置付けにしました」と、河口氏は話す。
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iタウンページのトップページ。誰でも使いやすいよう、使い勝手のよいインタフェースとなっている ※画像はイメージ
SEO検定の取得など社員のリスキリングも進める
収益の柱の1つとなるのが広告だ。
掲載は無料、広告は有料というモデルをiタウンページでも継承する。有料サービスは4種類を用意。オプションでは、検索キーワードのマッチング精度を向上させるサービスが月額500円(税抜)、サイト内の検索結果画面で上位表示するサ-ビスは月額2000円(税抜)から提供。最上位のスタンダードプランPlusは問い合わせフォームやECなどの機能を備え、デザイン性の高い広告ページを最上位に表示する(1万5500円<税抜>より)。
すでに紙のタウンページの約10万件の広告掲載のうち、約8割がデジタルへ移行済みという。
先述のSEOは全社的な取り組みだ。約1100人のNTTタウンページ社員の約8割が、SEO検定1級とウェブ解析士のどちらかの資格を取得し、専門性を高めている。業務上必要な社員はほぼ全員が取得している計算だ。
「デジタルマーケティングビジネスを展開するにあたって、お客様に説明できるように社員のスキルを向上させました」と河口氏は説明する。「当社のビジネスは売って終わりではありません。満足いただけなかったお客様は離脱してしまいます。お客様と継続的な関係を構築して、お客様のニーズに応えるためコンテンツを増やすなどの支援をすることを目指しています」と河口氏、顧客サポート専門の組織を立ち上げ、伴走する体制を整えているという。
広告掲載事業者向けには、契約内容やアクセス数などのデータに無料でアクセスできる会員サービス「Myタウンページ」も提供している。商圏、ターゲット層、デザインの好みなどの質問に答える形式でホームページサンプルを簡単に作成できるサービスなども用意した。会員数は年内に約30万に達する勢いで増加しているという。
今年度中にアプリ内アプリサービスも提供へ
今回のリニューアルはあくまで第一弾で、今後も機能を拡充していく。
まず今年度中に、iタウンページ内で事業者が自社のアプリを持てるサービスを開始する。アプリは無料とし、クーポンやプッシュ広告などは有料オプションとする設計を検討しているという。
競合は多く、ユーザーの認知度向上は重要な課題だ。河口氏はここでの戦略を「空中戦と地上戦」と表現する。
空中戦とはプロモーションだ。イメージキャラクターの多部未華子さんとオリジナルキャラクターのiタウンページ君を登場させた動画を活用したYouTube広告やタクシー広告なども展開する。若年層へのアプローチとしてSNS活用も検討しているという。地上戦とは、社員が訪問や電話などのチャネルを通じて顧客と密な関係を構築・継続することを指す。
河口氏は「日本の事業者の99.7%が中小企業。ここを活性化させることがわれわれの使命です」と、事業に込める願いを説明する。デジタルの可能性は無限だが、大切にしているのは「社会に貢献する、困っている人を助ける、地域の課題を解決することのお手伝いをする」という事業範囲の意識だ。「これを崩して、もうかるからという理由でいろいろ手を広げると、ユーザー離れが出てきます」と、同氏は自戒の念を込めて話す。
ビジネス展開は閉鎖的ではなく、オープンな姿勢で行政や他企業との協業を進めていく。「一緒にやりたいという声を多方面からいただいています」と河口氏。
この理念を基に、NTTタウンページは信頼性の高い地域情報インフラとして、さらなる進化を続けていく考えだ。