米国バイデン政権は、2024年末までにCHIPS for Americaに基づく半導体製造施設向けインセンティブ(補助金)の支給先として内定済みであった大手半導体メーカー各社(Samsung Electronics、SK hynix、Micron Technology、Texas Instruments(TI)など)への支給手続きを完了させた。
これらの決定は、すでに署名済みの暫定的な条件覚書および米商務省のデューデリジェンスの完了に続くものである。トランプ次期大統領がCHIPS法の存続に否定的な見解を示していることも、バイデン政権のうちに補助金を支給してしまおうという動きに拍車をかけた模様である。CHIPS法に基づき10億ドルを超す補助金を受給できたのは6社であった。
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10億ドルを超す半導体メーカーへのCHIPS補助金支給案件の状況。Intelは内定段階の85億ドルから最終的には78億5000万ドルに減額。Samsungも64億ドルから47億4500万ドルに減額された (米国商務省資料を基に著者作成)
前工程への投資以外も支給手続きが次々と完了
大手半導体メーカー以外にも米商務省は12月5日、韓SKCの関連会社である米Absolics(ガラス基板メーカー)に最大7500万ドル、部材メーカーのEntegrisに最大7700万ドル、17日には台GlobalWafersの子会社であるGlobalWafers AmericaとMEMCに4億600万ドル、SK hynixのHBM後工程工場建設に4億5800万ドルの補助金支給手続きを完了したことを公表しているほか、20日にもAmkor Technologyへの最大4億700万ドルの補助金支給手続きも完了させている。
さらに米商務省は、12月6日にCoherentのテキサス州シャーマンのInPデバイス製造工場拡張に最大3300万ドル、SkyWater Technologyのミネソタ州ブルーミントンのファウンドリファブの90〜130nmプロセスの3割増産に最大1600万ドル、12月10日に独XFabの米テキサス州ラボックのSiCファウンドリの拡張に最大5000万ドル、Micronのバージニア州マナサスのDRAM製造施設(元東芝とIBMの合弁DRAM企業Dominion Semiconductor、2001年にMicronが買収)の拡張と近代化のために最大2億7500万ドル、12月13日にBoschのカリフォルニア州ローズビルの製造施設(元NECの半導体工場)をSiCパワー半導体への転換するために最大2億2500万ドルといった具合に、CHIPS法に基づく補助金支給の拘束力のない暫定覚書を締結している。
注目はMicronへの約62億ドルの補助金支給に加え、追加で既存のDRAMファブの拡張と設備更新に米国政府が資金提供をしようという点。Micronから提案された20億ドルプロジェクトでは、1α-nm技術をマナサスの施設に導入することが掲げられている。自動車や産業機器にとって重要部品でもあり、1α-nm技術の安定供給をサポートすることで、米国のサプライチェーンの回復力が向上すると商務省は説明している。
バイデン政権は2022年に制定したCHIPS法に基づいて米国に投資する半導体企業に390億ドル、研究開発支援に132億ドルを投じるなど計522億ドルの補助金の分配を進めてきたが、この取り組みが終盤を迎えたことを一連の支給確定の動きは示しており、果たしてこれで米国の半導体製造がかつての輝きを取り戻し、世界最大の半導体製造国となれるかが注目される。