2024年11月5日(米国時間)に行われる米大統領選。民主党指名候補のカマラ・ハリス氏と共和党指名候補のドナルド・トランプ氏の熾烈な一騎打ちが予想されている。
現在、米国内の世論調査では両候補の支持率は拮抗しており、どちらの候補が次期大統領に選出されるのかを世界中が注視しているのは言わずもがなだろう。米大統領選挙の結果が日本の経済・産業界に与えうる影響とは、一体どのようなものがあるのだろうか?
今回、10月18日にみずほリサーチ&テクノロジーズが公表した「米大統領選を受けた経済・産業への影響~国民の『内向き化』が招く米国第一主義の帰結とは?」のレポートをもとに、日本のマクロ経済・市場への影響に関する部分を抜粋し、AIと半導体業界に関するものを紹介する。本稿は半導体編としてお伝えする。
半導体業界への影響
AI編では日本の貿易・投資や金融市場、株式市場、ドル・円相場に加え、産業全体に関する影響について紹介しているので、割愛させていただきたい。そのため、いきなり本題に入りたいと思う。ここでは、半導体と半導体製造装置に分けて説明する。
まずは半導体からだ。ジョー・バイデン大統領は2022年8月に発表したCHIPS法により半導体産業の強化や中国企業への規制強化を実施。これにより、TSMCやサムスン電子などの海外企業が米国に工場を新設している一方で、補助金需給企業は中国などでの投資を制限されている。
エンティティリスト(米国商務省産業安全保障局が発行している貿易上の取引制限リスト)による規制のほか、先端半導体・製造装置の対中規制・厳格化を実施し、規制を多様化している。
ハリス氏が当選した場合、バイデン政権下における方針・施策を継承することが見込まれている。半導体産業の強化や対中規制の基本方針は米国商務省が策定しており、大統領が交代しても基本的なスタンスに変更はなく、現状で検討されている施策も同氏の当選時は変更がない可能性が高いという。
他方、トランプ氏が再選した際はBuy American(バイ・アメリカン)や対中規制の強化が進むと予想されている。半導体工場の誘致強化により地産地消化が加速するが、台湾企業への支援姿勢が変化するというリスクを伴っていることに加え、対中規制対象の企業・製品など、新たな規制強化の可能性が取り沙汰されている。
また、日本の半導体メーカーへの半導体工場誘致の姿勢を強める可能性があるため、米国に工場を新設することも選択肢の1つとして考えられるものの、リソースの問題から大半の日本企業は米国生産には後ろ向きとの見立てだ。
加えて、中国に対する半導体販売について、さらなる規制も予想され、パワー半導体やアナログ半導体が対象の場合は影響が大きく、中国企業への組立工程の委託、製造ジョイントベンチャーの設立などが想定されるが、施策自体は規制の内容次第だと指摘。
半導体製造装置業界への影響
一方、半導体製造装置はバイデン政権で市場としての米国の存在は高まらなかったのが実情だ。CHIPS法による米国市場の押し上げ効果は限定的であり、新たな工場建設計画は複数立ち上がるものの建設は進んでいないという。
中国市場は、対中輸出管理強化で先端半導体向けなどは一時縮小したが、その後は大幅に拡大。非先端半導体向けの投資が伸長していることに加え、規制対象外の装置の先端半導体製造に対する活用も市場の押し上げ要因だと推測している。
さらに、ハリス氏が当選すれば、バイデン政権の米国内における半導体工場誘致、対中輸出管理強化などの政策を引き継ぐことが予想される。一部報道では、米国外で製造された装置の輸出規制強化を検討しているほか、日・韓・オランダなどからの輸出は対象外との報道もあるが、実際の法規と運用が日本にもたらす影響は見極めが必要とのことだ。
その反面、トランプ氏が再選すれば米中の装置需要が増加し、そのほかの地域における需要は相対的に減少するとの認識だ。需要増加の要因として、米国は半導体誘致強化による投資の増加、中国は輸出管理強化に受けて政府による半導体の国産化が加速するからだという。
こうした状況により、日本の装置メーカーは各地域への注力度の見直しやリソースの再配置を検討もしくは加速させる必要性に迫られるとの見解だ。米国ではアフターサービス機能の強化が重要となり、顧客サポート体制を充実させて半導体工場・ラインの増加で対応し、中国向け製品の開発強化も必要となることから、輸出管理と顧客ニーズ双方に準じた開発を進め、現地市場での競争力を向上させることが望ましいとしている。
半導体と製造装置共通の影響
半導体と製造装置共通の影響として、バイデン政権で成立したCHIPS法はトランプ前政権の超党派法案を起点とし、トランプ氏は半導体製造に関する政策を明確にしていないが、半導体の国産化に関する方向性は不変と推測されている。
先端半導体・先端パッケージングを中心にグローバル大手の半導体メーカーの誘致には成功したが、人材不足や需要の鈍化に伴う建設の遅延など課題は多くあり、次期政権では継続的な支援が求められている。
トランプ前政権時には各社への禁輸措置として開始した対中規制は、バイデン政権で中国全体に厳格化され、次期政権がどちらにせよ対中規制の厳格化は継続される見込みだ。また、米国企業による中国向け半導体製造装置の輸出規制や非半導体向けの規制など、米国半導体サプライチェーンの強靭化に向けた対中規制の拡張も想定されてる。
半導体業界への影響はどちらの候補者にしても、CHIPS法による半導体産業の強化、対中規制の流れは変わらず、日本企業に対する影響は限定的の見方もある。とはいえ、トランプ氏が再選した際は台湾企業への支援姿勢の変化や、日本企業に対する工場の誘致が強まる可能性などはあり、注視が必要であることは言うまでもないだろう。