米国による中国への半導体規制強化を念頭に、中国のIC設計大手各社が、2024年11月に行われる米国大統領選挙を前に、TSMCへの先端プロセス採用製品の発注を前倒しで増やす一方で、ADASやAI関連半導体の生産委託をSamsung Electronicsにシフトしてリスクを分散させる「プランB」を計画している可能性があるとの噂が台湾の半導体サプライチェーンに広がっていると台湾の経済紙「經濟日報」が7月29日付けで報じている

米国政府は対中半導体規制強化の一環として、TSMCの中国への出荷を全面的に禁止する検討を行っているとの報道などを背景に、中国勢がTSMCに駆け込み発注を行っていることもあり、TSMCの中国市場向け売上高比率は2024年第2四半期には16%まで増加しており、第3四半期にはさらに増える見込みだという。

今回、取りざたされているプランBは、そうした状況に対して打たれるであろう米国の規制強化に対するリスク分散の意味合いが強いものとみられている。

その中国向けの売り上げが増えそうなTSMCだが、同社が合弁の形でドイツに建設を進める予定の「European Semiconductor Manufacturing Company(ESMC)」の起工式が8月20日に独ドレスデンにて開催され、TSMCの魏哲佳(C.C.Wei)会長が式典に出席する模様であると台湾経済紙の經濟日報が7月31日付で報じている

現地での計画が順調に進行したことから、当初の2024年第4四半期の予定を前倒すこととなる。TSMCは2023年に欧州での工場建設計画を発表したが、そこから1年ほどで着工にこぎつけることとなり、同紙では、欧州への投資を発表してから業界で最も早く着工した企業となったとして「神速」と表現している。

ESMCは、TSMCが70%を出資するほか、Infineon Technologies、Robert Bosch、NXP Semiconductorsの3社がそれぞれ10%ずつ出資。主に車載半導体向けに28〜22nmプロセスのプレーナFETおよび16〜12nmプロセスのFinFETが提供される。出資者の欧州3社が主要顧客にもなるローリスク・ハイリターン戦略がとられている。工場投資額は100億ユーロ超とされ、2027年中の量産出荷の開始を目指している。月産規模は4万枚となっており、日本の熊本に建設されたJASMより小規模である。

なおTSMCは、このドイツでの半導体製造計画を主導するために、Boschの元上級副社長であったクリスティアン・コイチュ(Christian Koitzsch)氏をPresidentとして登用。ESMCの工場建設と運営の陣頭指揮を任せるとしている。