大阪公立大学(大阪公大)は5月15日、計12種類の合金元素がそれぞれ炭素や窒素とどのように相互作用するのか120パターンの組み合わせを理論計算した結果、チタンが特定の場所に配置する時に窒素や炭素と結びつき、鉄が硬化することが確認されたほか、鉄原子より大きい元素でないと結合しないことを解析データで示したことを発表した。
同成果は、大阪公大大学院 情報学研究科の上杉徳照准教授、同・大学大学院 工学研究科の瀧川順庸教授、大阪府立大学(研究当時)の東健司教授(現・大阪公大 工業高等専門学校 校長)らの研究チームによるもの。詳細は、日本鉄鋼協会が刊行する鉄鋼および関連材料に関する全般を扱う欧文学術誌「ISIJ International」に掲載された。
二酸化炭素の排出量を減らすための手段の1つとして、ガソリン車から電気自動車(EV)への転換が世界的に進められており、EVを駆動させるモーターや減速機の鋼製歯車には、静音性だけでなく高速回転に耐えうる耐摩耗性や耐疲労性が求められている。高機能な鉄鋼材料を設計するためには、鉄鋼の表面改質方法である浸炭や窒化のプロセスを最適化し、元素間の相互作用を理解することが不可欠だが、これまで体系的な調査は行われていなかったという。そこで研究チームは今回、その体系的な調査を実施することにしたとする。
浸炭や窒化では、鉄鋼の表面に炭素や窒素を導入し、微細な炭化物や窒化物、ナノクラスターを形成することで鉄鋼の硬度を向上させる。今回の研究では、その浸炭と窒化に焦点が当てられ、元素間の「相互作用エネルギー」(鉄に含まれる原子が引き合うのか反発するのかを示す指標で、マイナスなら引き合い、プラスなら反発する)について、第一原理計算を用いて定量的な評価が行われた。炭素や窒素の原子と、アルミニウムやチタンなどの原子との間で形成される、さまざまな位置関係や組み合わせにおける「二原子クラスター」(鉄に含まれる異なる元素の2つの原子が凝集した状態のこと)の相互作用が調べられた。
元素の組み合わせは、炭素と窒素それぞれに12種類の合金元素、さらに、体心立方構造の位置関係において最も近いものから5番目のものまで、合計120パターンについての計算が行われた。その結果、120パターン中で特定の位置関係にある限られた元素のみ、炭素や窒素と強く結合することが判明したという。
さらに、「重回帰分析」(原子サイズや電子数など人間が解釈可能な複数の因子から相互作用エネルギーを予測し、どの因子が相互作用エネルギーに強く働いているかを分析する手法)と、「層別分析」(電子数などが同じ元素のグループを作り、グループ内での比較を行うことで、原子サイズが相互作用エネルギーに及ぼす影響を分析する手法のこと)を利用した解析が行われた。すると、鉄原子よりも大きい元素でないと、炭素や窒素と結合しないことが明らかにされた。
また、「三原子クラスター」(鉄に含まれる異なる元素の3つの原子が凝集した状態)間の相互作用エネルギーについても調査が行われ、原子の配列の違いによりエネルギー状態が大きく変わること、鉄を硬化させるナノクラスターを形成する元素の組み合わせでなければ、三原子クラスターは結合しないことが突き止められたとする。
今回の研究成果は、特定の用途に適した鉄鋼材料開発につながることが期待でき、表面改質プロセスの最適化の基礎となりえるという。今後は、さらに多くの元素の組み合わせや異なる環境条件下での相互作用を調査することに加え、産業界との連携を進めることで、実際の製造プロセスにおける鉄鋼材料の性能向上に貢献することが考えられるとしている。