最近、日本各地に宇宙港が増えている。北海道・大樹町のHOSPO(北海道スペースポート)ではインターステラテクノロジズが数年前から観測ロケットを打ち上げてきたし、和歌山県串本町のスペースポート紀伊からは3月13日にカイロスロケット初号機が打ち上げに挑戦した。
一方、日本の“元祖”宇宙港と言えば、鹿児島県肝付町にある宇宙航空研究開発機構(JAXA) 内之浦宇宙空間観測所だ。日本の「宇宙開発の父」と呼ばれる糸川英夫博士が新発射場の建設地を捜し歩く中で、大隅半島の東端にある内之浦にたどり着いたのが1960年。太平洋に向かって用を足しているとき、「ここだ!」と叫んだと語り継がれる場所である。
当時「陸の孤島」と呼ばれた内之浦での射場建設は困難を極めたが、地元婦人会などの献身的な協力を得て、1962年に東京大学 生産技術研究所附属の鹿児島宇宙空間観測所(KSC)としてオープン。1970年2月11日、日本初の人工衛星が飛び立ち、地元への感謝を込めて「おおすみ」と名付けられた。種子島が「世界一美しい発射場」なら、内之浦は「世界一愛される発射場」と呼ばれる。
だが最盛期と比べれば、内之浦からのロケット打ち上げ頻度が減っているのも事実。「宇宙のまち」の元祖として約60年の歴史と実績がある肝付町は、今後どんな方向に舵を切るのか。
おおすみの打ち上げから54年目にあたる2024年2月11日、肝付町で「きもつき宇宙フェス」が開かれ、のべ約2000人以上の宇宙ファンが集結。山崎直子宇宙飛行士が「肝付町の未来予想図」をテーマに講演し、参加者と意見交換を行った。さらに永野和行肝付町長へのインタビューと合わせて、肝付町の未来予想図を探る。
山崎直子宇宙飛行士「実際の宇宙にふれられる本物体験を」
父親が肝付町に隣接する鹿屋市出身という山崎直子さん。現在は内閣府の委員として政策面から宇宙に関わるほか、宇宙と地球をつなぐ「Space Port Japan(スペースポートジャパン)」の代表理事、さらには宇宙教育など、さまざまな活動を行っている。
山崎さんは講演内で、まず宇宙開発の最近のトレンドを紹介。例えば「国の政策文書である宇宙基本計画の『宇宙輸送に関わる制度環境の整備』でスペースポート(宇宙港)が位置付けられ、地方創生の観点も大事と書かれている」と話す。また、国内で計画中のものも含めてスペースポートは6か所あるが、宇宙港は「宇宙と地上をつなぐ、地域の街づくりそのもの」と語りかける。
世界でもスペースポートは増え続けていて、米国で14か所、英国で2か所あるという。大分県は水平型スペースポート実現を目指している中、宇宙港のある英・コーンウォールの高校と国東高校の生徒がオンラインで宇宙をテーマに交流した。「国を超えて交流が広がっていくといい」と山崎さんは期待する。
さらに、宙ツーリズムが2018年に約1万人を対象に行ったアンケートについて、興味深い結果が披露された。プラネタリウムを見に行ったり、日食や月食を観測したりなど、実際に宇宙や天文に関して行動を起こした人は約850万人と推計されたといい、“行動してはいないがやってみたい”と回答した人が約4000万人と、国民の3人に1人ほどのニーズがあることがわかってきたという。また、ロケット打ち上げを実際に見た人は3.8%だが、見たいと答えた人は33%。「ロケット打ち上げを見たい人を受け入れられる場づくりも必要」と山崎さんは指摘する。
そして、山崎さんが重要と考えるのは人材育成や教育だ。今回初めて実施された「きもつき宇宙フェス」では、全国から11の高校が集まり「宇宙甲子園 缶サット部門全国大会」が開催された。全国大会には、地元・肝付町にある鹿児島県立楠隼(なんしゅん)高校の宇宙部も、地方大会を勝ち抜き参加。山崎さんは「(実際の)宇宙に触れられるのが肝付町の大きな魅力。本物体験がもっとできるようになるといい」と呼びかけた。
来場者と共に考える「肝付町の未来像」
山崎さんの基調講演に続き、「肝付町をわくわくする宇宙の町にするには、どんなものがあったらいいか」をテーマに来場者から意見を募ると、次々と手が上がった。
例えば「宇宙体験ができる宿泊施設が欲しい。無重力を体験してみたい」という意見は、地元・肝付町の参加者から。山崎さんは「航空機で高度を上げた後に急降下させたり、プールの中で重りを付けてバランスをとったり、下から空気を出して浮いているような感覚を作ることもできる」と、無重力体験の実現にさまざまな方法があることを紹介した。「無重力が体験できたら、他県や世界からも肝付町に泊まりに来てくれるかもしれない」と、進行役を務めた“宇宙キャスター”の榎本麗美さんも興味津々の様子だ。
鹿児島市からの参加者からは「地元の特産品を作った宇宙食をもっと売ってほしい」とリクエストが寄せられた。「肝付町は農林水産業の町ですから、おいしいものがいっぱいあります。アイデアをぜひ頂きましょう」と永野町長が答えると、山崎さんは「福井県の高校生が開発した地元の鯖缶が宇宙日本食になり、宇宙飛行士が実際においしいと食べています」と実例を紹介。食を通じることで宇宙が身近になり、地域活性化にもつながりそうだ。
「ISS(国際宇宙ステーション)にドッキングできる自家用ロケットを開発してほしい」という小学生からの意見が飛び出すと、山崎さんは「皆さんが大きくなるころには、民間の宇宙ステーションや宇宙ホテルができているでしょう。肝付町で本物体験をした人たちが育って産業が集積することで、大きな夢に向かっていけるといいですね」と後押しした。
続いて東京の大学で街づくりについて学んでいるという大学生からは「宇宙と地方創生を具体的にどうやって結びつけるのか」という質問が寄せられた。「地域に根差した特色のあるやり方がいい。例えば肝付町は射場があるのが大きな強み。本物体験ができる体験型のツーリズムに、特産品を使って食を絡めれば相乗効果が期待できます。いろいろな人たちとコラボしていくことがすごく大事」という山崎さんの回答に、大学生は新たな気づきを得たようだった。
会場には、地元肝付町だけでなく、鹿児島県内、九州の他県、本州から駆け付けた人も参加し、活発な意見交換が行われた。元祖宇宙の町・肝付町への期待の高さが感じられた一幕である。