半導体製造における先進装置制御およびプロセス制御(Advanced Equipment Control/Advanced Process Control)に関連する話題に特化した国際シンポジウムである「AEC/APC Symposium Asia 2023」が「複雑さをひも解くデータ活用のベストプラクティス」をテーマに11月2日に東京で開催された。

同シンポジウムは、欧米で毎年開催されている「APC Symposium」のアジア版として2007年以降、奇数年に開催されてきており、今回で9回目となる。半導体製造におけるデータドリブンなAEC/APCを中心に、最先端の半導体生産技術を議論する重要な国際シンポジウムとして、半導体製造工程制御領域のエキスパートが世界中から集まる国際会議となっており、半導体製造に関する技術情報のネットワーキングの場として重要性が増している。主催は、この親会議にあたるISSM(半導体製造国際会議)で、SEMIと日本半導体製造装置協会(SEAJ)が後援している。

基調講演には、日本アイ・ビー・エム東京基礎研究所 セミコンダクター シニアリサーチマネージャーの山道新太郎氏が登壇。「コンピューティングの未来 - ビット/ニューロン/キュービット 」と題して、「トランジスタの微細化に支えられてきたデジタル技術(bits)の進展は、ナノシート技術によってさらなる進展が期待される。一方、増大するAI処理を超低消費電力にて実施するための新しい計算要素(Neurons)や、全く異なる物理原理を用いた新しい計算要素(Qubits)が大きな進展を見せ、新たなアプリケーションの開発につながっている」と現状のコンピューティングを取り巻く現状ならびに、これら将来のコンピューティングの3要素(bits、Neurons、Qubits)とそれらの計算機システムへの適用例、アプリケーションの開発状況について概説した。

また、チュートリアル講演では、明治大学 理工学部 応用化学科 准教授の金子弘昌氏が「人工知能・機械学習による実践的な分子・材料・プロセスの設計およびプロセス管理」について説明を行ったほか、東京工業大学(東工大) 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所 特任教授の栗田洋一郎氏が、ICチップ間の接続帯域を維持したまま、異なる製造方法や機能・構造のチップを多数集積することで最適かつスケーラブルに能力を拡張できる可能性があるチップレット集積技術についての説明を行った。チップ/ブリッジ集積の最小限構成としてPillar-Suspended Bridge(PSB)構造やそのコンセプトをMetaIC(Integrated Circuit of the Integrated Circuits)として提案したほか、産業化に向けた東工大、阪大、東北大を中心としたチップレット集積プラットフォーム・コンソーシアムの活動の紹介などを行った。

最優秀論文賞はソニー、学生論文賞は筑波大学が受賞

同シンポジウムでは、公募で採択された13件の講演が行われ、「後工程における機械学習を用いた不良率予測」と題する講演を行ったソニーセミコンダクタマニュファクチャリング(熊本)の宮地由美子氏が最優秀論文賞を受賞した(図1)。

半導体製造工場では、日々蓄積されるビッグデータを活用した統計や機械学習モデルの構築により、多くのエンジニアが生産性向上、品質維持、歩留まり向上活動に取り組んでいる。特にウェハプロセスでは、装置情報を活用して製品の品質を予測することに注力している。一方で、CMOSイメージセンサの組立工程では、用途に応じてパッケージサイズや構造が多種多様であるため、設備のセットアップが難しく、不良率がばらつきがちである。さらに、データの構造が標準化されておらず、定性的データと定量的データが混在しているため、予測モデルの構築が困難である。そこで、ソニーでは、パッケージサイズや構造が異なる製品について、組立工程の設備情報と製品情報を用いて不良率予測モデルを構築することにして、今回、その取り組みについて報告した。データセット作成時にはエンジニアの知識でデータを適切に加工し、モデル構築時には変数を選択した結果、パッケージサイズや構造が異なる製品の結果を簡単に検証し、不良率を予測できるモデルを構築することができたという。「今後はモデルを活用して最適なパッケージ構造や装置条件を決定していき、さらにウェハ工程と組立工程で一貫した歩留り予測を可能にする技術開発と環境構築にも挑戦したい」と宮地氏は抱負を語っていた。

  • ソニーセミコンダクタマニュファクチャリングの宮地由美子氏

    最優秀論文賞を受賞したソニーセミコンダクタマニュファクチャリングの宮地由美子氏(右)とプログラム委員会委員長の柿沼英則氏(キオクシア) (提供:AEC/APC Symposium ASIA事務局)

また、優秀学生論文賞は「Mixed-type Defect Pattern Classifications」と題する講演を行った筑波大学の前田拓海氏に授与された。畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を活用したシリコンウェハの欠陥マップに現われる多種多様な欠陥パターンの分類について考察したものとなる。

このほか欠陥パターン分類に関しては、三重大学が「画像生成モデルを使ったウェハマップ上の未知パターンの分類」について発表したほか、装置やプロセスの異常検出に関しては以下の4件の発表があった。

  • プロセス制御での異常検出ための統合プラットフォーム (Applied Materials)
  • 画像センサを活用したさまざまな異常検出の開発 (ルネサス エレクトロニクス)
  • クラスター分析による半導体製造装置の異常検知 (Kokusai Electric)
  • 発光分光信号を用いたプラズマプロセス擾乱の根本原因解析 (韓Sungkyunkwan University)

プロセス制御への機械学習の適用に関しては以下の2件の発表があった。今後、AEC/APCは、AIによって飛躍的な進歩を遂げることが期待される。

  • 多品種製造における効果的なプロセス制御のための機械学習ベースの仮想計測 (Siemens EDA)
  • ウェットエッチング量予測における数値計算法と機械学習ベースの手法の比較 (東京大学)

このほか、真空およびガス計測分析器メーカーであるInficonから2件発表があったことが注目される。複数発表は同社のみであった。

  • プラズマプロセスでのエンドポイント検出のためのRFセンシング法 (Inficon)
  • コンテクスト・ベース制御によるスマートなサブファブの変換 (Inficon)