金沢大学(金大)、東北大学、京都大学(京大)、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の4者は9月15日、電子を効率よく加速・散乱させる電磁波(コーラス波動)が水星の朝側(水星から約1200km内)で発生しており、発生メカニズムが十分にわかっていなかった水星のX線オーロラの駆動源であることを直接示したと共同で発表した。

  • 水星でのコーラス波動発生のイメージ。

    水星でのコーラス波動発生のイメージ。(水星画像(c) NASA/Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory/Carnegie Institution of Washington)(出所:共同プレスリリースPDF)

同成果は、金大 理工研究域 電子情報通信学系の尾﨑光紀准教授、同・八木谷聡教授、同・松田昇也准教授、金大 学術メディア創成センターの笠原禎也教授、東北大大学院 理学研究科 惑星プラズマ・大気研究センターの笠羽康正教授、京大 生存圏研究所の大村善治教授、同・栗田伶准教授、JAXA 宇宙科学研究所の中澤暁氏、同・村上豪助教に加え、マグネデザイン、仏・プラズマ物理学研究所の研究者も参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の天文学術誌「Nature Astronomy」に掲載された。

地球よりも太陽系の内側へと向かうのは難しく、中でも水星探査に関してはまだ2回しか行われていない。1974年~1975年に行われた米国航空宇宙局(NASA)の「マリナー10号」によるフライバイ観測では、水星が地球と同じく固有磁場を有していること、地球と似た磁気圏構造を有することが発見された。そして2011年~2015年に初の周回軌道からの探査を行ったNASAの「メッセンジャー」は、水星の持つ固有磁場や磁気圏の様相をより詳細に解明し、水星の磁場の中心が約0.2RM(RMは水星半径2439.7km)北へずれていることなども明らかにした。

そして現在、探査機による3回目の直接探査として、JAXAの水星磁気圏探査機「みお」と欧州宇宙機関(ESA)の水星表面探査機「MPO」のコンビによるベピ・コロンボ国際水星探査計画が進行中だ。2023年6月20日(日本時間)には3回目の水星スイングバイが成功し、2025年12月5日の軌道投入へ向けて順調に航行を続けている(水星スイングバイはあと3回実施される見込みで、4回目は2024年9月5日の予定)。

みおは数百Hz以上の電磁波を調べることが可能で、水星周辺における未知の電磁環境の解明が期待されている。電磁波は、プラズマを効率よく加速、減速させることに関わり、水星プラズマ環境の理解に直結する役割があるという。

同探査機は現在、MPOと合体して水星への軌道投入に向けて航行を続けている。そのため、現在は観測に最適といえる状態ではないのだが、観測機器を作動させることが可能なことから、1回目(2021年10月2日)と2回目(2022年6月23日)のスイングバイの機会を利用して、水星周辺の電磁波計測が行われた。この時みおは、約200kmの高度まで水星に接近。日欧共同開発の交流磁界センサを用いて、水星周辺の電磁波観測が実施された。その結果、地球磁気圏で頻繁に検出されるコーラス波動の局所的発生を捉えることに成功したという。

水星磁気圏でコーラス波動が発生している可能性は、2000年代から予想されており、その周波数範囲や強度などが推測されていた。しかし研究チームによると、水星磁気圏のコーラス波動が朝側の極めて限られた領域にのみ検出されるという「空間局所性」があることは予想外だったという。そしてこの発見は、水星磁気圏の朝側に特有のコーラス波動を発生させやすい物理メカニズムがあることを意味するとしている。

朝側でのコーラス波動発生の要因として、研究チームは、京大の大村教授が確立したコーラス波動の非線形成長理論に基づき、太陽風により強く変歪する水星磁場の曲率の影響の評価を行ったとする。夜側の磁力線は太陽風に引き延ばされるのに対し、朝側の磁力線はその影響が小さく、曲率は小さくなる。この磁力線の特徴と非線形成長理論より、朝側は磁力線に沿って効率よく電子から電磁波にエネルギーが授受され、コーラス波動が発生しやすい条件となることが解明され、その効果は水星環境を模擬した数値シミュレーションでも確認されたという。

  • 2度の水星フライバイ観測での水星からの距離と、コーラス波動の強度と磁力線曲率の関係(弱い磁力線曲率の領域につながる朝側での観測でコーラス波動を検出)。

    2度の水星フライバイ観測での水星からの距離と、コーラス波動の強度と磁力線曲率の関係(弱い磁力線曲率の領域につながる朝側での観測でコーラス波動を検出)。(出所:共同プレスリリースPDF)

今回の水星フライバイ観測の成果は、水星にコーラス波動を発生させるような活発な電子が存在すること、そして、コーラス波動により効率よく加速される高エネルギー電子発生の可能性、コーラス波動が駆動源となる水星磁気圏から水星表面に強制的に降下される電子によるX線オーロラ発生など、水星環境を理解するための科学的影響は広範囲に及ぶとする。

また、水星フライバイ観測の限られた水星領域の観測に際して、磁場の変歪がプラズマ環境において重要であることが解明された。そして研究チームは、今後のみおによる周回軌道での電磁環境総合探査は、水星磁気圏全体のプラズマ環境理解に貢献するだけでなく、地球磁気圏との比較により、生命に悪影響を及ぼす宇宙放射線を、防ぐ役割のある磁気圏の詳細理解に貢献していくことが期待されるとしている。