東京工業大学(東工大)は7月31日、太陽系の天体としては地球以外で唯一液体の海や湖などが確認されている土星において、最大の衛星であるタイタンの大気中で作られる極めて微小な有機物エアロゾルが、地表面の液体メタンの降雨蒸発によって、大きな砂サイズの粒子に急激に成長することを示したと発表した。

  • NASAの探査機カッシーニが撮影した土星衛星タイタン全域の赤外線画像。

    NASAの探査機カッシーニが撮影した土星衛星タイタン全域の赤外線画像。赤道域に広がる色の暗い領域が砂丘。(c)NASA JPL(出所:東工大 ELSI Webサイト)

同成果は、東工大 地球生命研究所(ELSI)の平井英人大学院生、同・関根康人教授らの研究チームによるもの。詳細は、地球科学に関する全般を扱う学術誌「Geophysical Research Letters」に掲載された。

土星最大の衛星であるタイタンは半径が2575kmあり、水星よりも大きい。同衛星はメタンを数%含んだ厚い窒素の大気を持ち、地表面の大気圧は地球のおよそ1.5倍もあることが知られている。また大気がこのような成分のため、光化学反応によって有機物エアロゾルが生成されていることがわかっている。

タイタンの地表には液体メタン(約-183℃~約-161℃)の海や湖があり、赤道域は有機物から成ると推測される砂丘で覆われている。このように地球によく似た地形がある一方で、砂丘を作る有機物の砂粒子の起源はわかっていなかったという。有機物エアロゾルが地表に落ちて砂になる可能性も考えられるが、エアロゾルは100nm程度、砂粒子は100μm程度と、およそ1000倍も大きさが異なる。仮に有機物エアロゾルをビー玉の大きさとすれば、砂粒子は5階建ての建物に匹敵するほど大きさが違うのだ。そこで研究チームは今回、タイタンの砂がどのようにできるのかという謎に対し、液体メタンの降雨蒸発に着目したという。

タイタンでは、砂丘においても液体メタンの降雨と蒸発が起きる。そこで今回の研究では、タイタンの降雨蒸発を再現した実験装置が製作された。すると、エアロゾルは液体メタンで集められ、それが蒸発する際に、エアロゾルから溶けた成分が糊(のり)のように無数のエアロゾルをくっつけて、効率的に大きな粒子になることが明らかになったとする。このことから研究チームは、タイタンでは無数のエアロゾル粒子が液体メタンの影響でくっついて、大きな砂粒子になっている可能性があるとする。地球や火星、小惑星では、大きな岩石が温度変化や水の浸透などで割れて砂粒子ができるが、エアロゾルから砂粒子へと成長するというメカニズムは、それらと大きく異なることになる。

なおタイタンを調査する宇宙計画としては、米国航空宇宙局(NASA)の「ドラゴンフライ」が進行している最中だ。ドラゴンフライはマルチロータービークル型の着陸機で、飛行によって複数の地点を移動して探査を行う計画となっている。その打ち上げは1年延期されて2027年となることが発表され、到着は2034年が予定されている。研究チームは今回の研究の予測について、このドラゴンフライなど、将来の探査によってその正確性が確かめられることが期待されるとしている。

  • 打ち上げ予定が2027年6月に延期されたNASAのマルチロータービークル型のタイタン探査機「ドラゴンフライ」のイメージ。2034年までにタイタンに到着する予定。

    打ち上げ予定が2027年6月に延期されたNASAのマルチロータービークル型のタイタン探査機「ドラゴンフライ」のイメージ。2034年までにタイタンに到着する予定。(c)NASA/Johns Hopkins APL(出所:NASA Webサイト)