ベルギーimecは、ピン留め薄膜フォトダイオードのイメージセンサへの集積に成功したと発表した。

ピン留めフォトゲートとトランスファーゲートを導入することで、波長1μmを超える薄膜イメージセンサの優れた吸収特性を利用できるようになり、コスト効率の高い方法で可視域を超える光をセンシングすることが可能性になったという。ちなみに、ピン留めフォトダイオードは、埋め込み型フォトダイオードの一種で、残像のない受光素子として機能させるために受光面が外部電圧によりピン留め固定された受光素子である。

  • imecが開発したピン留め薄膜フォトダイオードを集積したイメージセンサ

    imecが開発したピン留め薄膜フォトダイオードを集積したイメージセンサ (出所:imec)

可視光を超える波長、例えば赤外線の検出技術の応用例としては、自律走行車における煙や霧を見通すためのカメラや、顔認識を行いスマートフォンのロックを解除するカメラなどが挙げられる。可視光はシリコンベースのイメージセンサで検出できるが、短波長域の赤外光(SWIR:1000nm以上2500nm未満の波長域)のような長い波長にはシリコン以外の半導体が必要である。

III-V材料を使用すると、この検出限界を克服できるが、これらの吸収体の製造にはコストがかかるため、その使用は制限される。対照的に、薄膜吸収体(量子ドットなど)を使用するセンサが近年、代替技術として有望視されており、優れた吸収特性を備えたこれらの技術は従来のCMOS読み出し回路に集積できる可能性が指摘されているが、現在までのこうした赤外線センサはノイズ性能が従来技術と比べて劣っており、画質の低下につながるという課題があった。

すでに1980年~1990年代にかけてピン留めフォトダイオード(PPD)構造はシリコンCMOSイメージセンサに導入された実績があるが、この構造では、トランジスタゲートを追加するとともに特殊な光検出器構造を導入することで、積分が開始される前に電荷を完全に排出。その結果、低ノイズと電力性能の改善により、PPDがシリコンベースのイメージセンサの技術として標準的なものとなったが、シリコンイメージングを超えて、この構造を組み込むことは、2つの異なる半導体システムをハイブリッド化することが難しいこともあり困難とされてきた。

今回、imecの研究チームは、薄膜ベースのイメージセンサの読み出し回路にPPD構造を組み込むことに成功。この種の取り組みとしては初めての実証であるとimecでは主張している。開発されたSWIR量子ドット光検出器は、IGZOベースの薄膜トランジスタとモノリシックにハイブリッド化され、PPDピクセルに組み込まれたもので、このアレイは、CMOS読み出し回路上で処理され、優れた特性を示したという。ピン留め薄膜フォトダイオードプロジェクトのリーダーを務めるimecのNikolas Papadopoulos氏は「プロトタイプの4T(4個のトランジスタ)イメージセンサは、従来の3T(3個のトランジスタ)センサと比較しても低い読み出しノイズを示した」と述べており、これによりノイズ、歪み、干渉が少なく、より正確で詳細な赤外線画像を捉えるできことができるようになったという。

  • T3イメージセンサとT4イメージセンサの画質比較

    T3イメージセンサとT4イメージセンサの画質比較 (出所:imec)

また、imecのPixel Innovationsプログラムでマネージャーを務めるPawel Malinowski氏は、「imecでは、薄膜フォトダイオード、IGZO、イメージセンサ、薄膜トランジスタに関する専門知識を組み合わせることができ、その結果として赤外線とイメージセンサを橋渡しする世界の最前線に立っている。このマイルストーンを達成することで、imecは現在のピクセルアーキテクチャの限界を超え、最高のパフォーマンスを発揮する量子ドットSWIRピクセルと手頃な価格の製造を組み合わせる方法を実証した。今後の実用化に向けた取り組みとしては、さまざまなタイプの薄膜フォトダイオードでのこの技術の最適化と、シリコンイメージングを超えたセンサへの応用の拡大をはかることにしており、imecでは業界パートナーと協力してこれらのイノベーションをさらに進めていきたい」と述べている。

なお、この研究成果の詳細は、学術誌「Nature Electronics」の2023年8月号に「Thin-film image sensors with a pinned photodiode structure」というタイトルで掲載されている。