パナソニック ホールディングスは、これまで研究開発を続けてきた有機CMOSイメージセンサの新たな成果として、近赤外域~可視光域の幅広い波長範囲において、混色を抑えた、良好な色再現技術を開発したことを発表した。

従来のシリコンベースのBSI(BackSide Illumination:裏面照射型)CMOSイメージセンサは、入射光がフォトダイオードを分離する隔壁(シリコン基板)を突き抜けたり、そこで反射した光が上層の遮光層にあたったり、フォトダイオードを抜けた透過光の反射することなどにより、隣のフォトダイオードに光が入ってしまい混色を発生させてしまっていたことから、シアン光やマゼンタ光などのような特定波長にピークを持つような光源下では、正確な色再現や色の認識や判定が難しいという課題があったという。

  • BSI CMOSイメージセンサと有機CMOSイメージセンサの構造の違い

    従来のシリコンベースのBSI CMOSイメージセンサと、パナソニックが開発を進めてきた有機CMOSイメージセンサの構造の違い (資料提供:パナソニック ホールディングス、以下すべて)

  • 従来のCMOSイメージセンサと今回開発した有機CMOSイメージセンサの色再現性比較

    従来のCMOSイメージセンサと今回開発した有機CMOSイメージセンサの色再現性比較

パナソニックが研究開発を進めてきた有機CMOSイメージセンサは、オンチップレンズとカラーフィルタ部は従来型と同様ながら、フォトダイオードを用いるのではなく、その下に保護膜と有機薄膜、そして金属電極を配置。有機薄膜を光電変換、電荷の蓄積を電極ならびに配線部よりも下の増幅トランジスタなどの間の独立した「Floating Diffusion(FD)」に分けることで、ワイドダイナミックレンジの実現や、隔壁のない大面積の有機薄膜を活用した形のローリングシャッタ/グローバルシャッタの容易な切り替えの実現や感度波長帯域の設計自由度の向上などを実現してきたという。

  • 有機CMOSイメージセンサの特徴

    有機CMOSイメージセンサの特徴

今回の取り組みでは、高い光吸収率、具体的にはシリコンに対して最大10倍ほどの高さを有する有機膜を採用することによって0.5μmという薄膜化に成功し、隣接画素への入射光を低減したほか、有機膜直下に画素電極のほか、隣接領域に電荷排出用の電極を形成することで、画素境界部の不要電荷を排除。画素電極と電化排出用電極の間の距離もごくわずかとすることで、透過していってしまう光の量を抑えることに成功。同社の光強度シミュレーションでは、従来のBSI型CMOSイメージセンサの透過率が波長600nmで20%ほどであったものが、開発した有機CMOSイメージセンサでは1%ほどとなり、これらの結果、混色を低く抑えることができるようになり、光源の波長に制限なく、どのような光であっても正確な色再現を実現したとする。

  • 今回開発した3つの技術的特長
  • 今回開発した3つの技術的特長
  • 今回開発した3つの技術的特長
  • 今回開発した3つの技術的特長
  • 今回開発した3つの技術的特長。有機膜の薄膜化、電気的な画素分離技術、電極を活用した光の透過抑制の3つがポイントとなる

同社では、近赤外域から可視光域までの波長で高い色再現性が可能であることを確認したとしており、産業分野におけるさまざまな検査であったり、ヒトの肌や血管のモニタリングなどに加え、画素ピッチも別の研究だが0.9μmピッチまでは微細化できることを確認しており、さらなる微細化も期待できることから、より高精細かつ高い色再現性を武器とした映像機器への活用など、さまざまな産業分野での活用につなげたいとしている。実際に研究開発に携わったパナソニック ホールディングス テクノロジー本部 マテリアル応用技術センターの佐藤嘉晃 主任研究員は、「信頼性含めて、有機CMOSイメージセンサの基本的な特性が見えてきたこともあり、市場動向を踏まえて、近いうちに有機CMOSイメージセンサ技術を商用化につなげたい」と意気込みを見せており、車載用途でも、自動運転時の認識率の向上につながることが期待されることから、分野を問わず、幅広い用途での活用に向けた提案を行っていきたいとしている。

  • 今回開発された技術の適用アプリケーションイメージ

    今回開発された技術の適用アプリケーションイメージ