得られた薄膜は、ナノ細孔内の吸着水により高い水素イオン伝導性を示すため、電気二重層の充放電速度の高速化が期待できるという。パルス電圧印加により動作速度(時定数)を調査したところ、27μsだったとのことで、これは典型的なEDLTよりも370倍も高速であり、従来の世界記録(229μs)と比較してもおよそ8.5倍となる速度が達成されたとしている。

またこの素子に、情報処理が必要な時系列データを電圧パルス列として入力すると、上述した電気二重層の充放電によってダイヤモンド表面を流れる電流(ドレイン電流)が刻一刻と変化し、ニューロモルフィック動作が行われる。これを受け研究チームは、この素子を物理リザバーに用い、情報処理に応用したとする。

物理リザバーコンピューティングはニューロモルフィックコンピューティングの一種であり、物理リザバーに信号を入力し、その内部での信号変化を利用して情報処理を行う手法のことをいう。深層学習を含む一般的な階層型ニューラルネットワークよりも低い計算コスト(消費電力)で情報処理を行える点が特徴だ。

研究チームはこの素子の情報処理性能に対し、物理リザバーコンピューティングの性能試験に用いられる非線形変換タスクを用いて評価を実施。三角波を入力し、位相が90度シフトした波形や周波数が2倍の波形への変換を行った際の変換精度を評価したところ、91.1%、93.9%と非常に高い値が得られたという。なおこの精度は、ナノワイヤネットワークを用いて報告された69%、79%よりも高いものとだとしている。

  • (a)非線形変換タスクの正解波形と予測波形の比較。(b)他の素子との変換精度の比較。

    (a)非線形変換タスクの正解波形と予測波形の比較。(b)他の素子との変換精度の比較。(出所:NIMSプレスリリースPDF)

今回の研究により、セラミックス薄膜を利用して電気二重層効果の充放電を高速化する新技術が開発された。電気二重層という厚さ数nm程の微小空間を利用し、高速なAI機能を実現できることは実用上の大きなメリットだという。スマートウォッチや監視カメラ、音声センサなどの各種センサとの組合せにより、医療、防災、製造、警備などの幅広い産業で利用できる、高速かつ低消費電力に動作するAI機能搭載機器への応用が期待される。

また、電気二重層効果は電子デバイスだけでなく、固体電池やキャパシタといったエネルギーデバイスの性能との関連も指摘されており、今回の研究成果の活用による充放電の高速化も期待されるとした。