エッジAI向けニューロモーフィックIPの開発を行う豪BrainChipは5月30日、Sean Hehir CEOの来日に併せたメディアブリーフィングを開催し、自社の現状と今後の戦略を説明した。

  • BrainChipのSean Hehir CEO

    自社の現状と今後の方向性について説明を行ったBrainChipのSean Hehir CEO

同社は2004年に設立された半導体IPベンダ。2020年に第1世代のニューロモーフィックプロセッシングユニット(NPU:Neuromorphic Processing Unit)IP「Akida(アキダ)」をリリース。2021年には評価用SoC「Akida AKD100」を開発し、2022年より開発キットの提供も行ってきた。エッジAI分野にフォーカスし、すでに第1世代IPについては、ルネサス エレクトロニクスならびにメガチップスの2社とライセンス済みなほか、メルセデスベンツやNASA(米国航空宇宙局)での性能評価が進められており、メルセデスベンツからはほかのソリューション比で5~10倍高い効率を確認したというコメントが出されているという。

  • 同社のターゲットとする産業分野

    同社のターゲットとする産業分野。実際には同社のAkida IPを搭載したマイコンなどを半導体ベンダが設計・開発・製造し、それらの分野に製品を提供していくことになる (資料提供:BrainChip、以下すべて)

また、2023年3月には第2世代Akidaを発表。これにより、Akidaのラインナップは、第1世代の流れを汲み、エッジデバイスのセンサの機能強化や、センサの処理をするマイコンへの搭載を見込む「akida-E」、第2世代でジェスチャー検知などのちょっとしたエッジAI用途に向けた「akida-S」、そして同じく第2世代でNVIDIAのJetsonで行われているような動画ベースの画像認識などにも対応可能な「akida-P」の3製品が提供されることとなる(akida-Sとakida-Pの違いは基本アーキテクチャは同じだが、NPUの数などのスケール)。ただし、akida-Sおよびakida-Pの実際のIPとしての提供は2023年9月を予定しており、こちらに関しては自社で評価用チップを用意することはなく、同IPを内蔵したパートナーのチップが提供される形を目指すとするほか、第3世代以降については、18カ月以内をめどにアナウンスしていきたいとしている。

  • 第2世代Akidaのリリース

    第2世代Akidaのリリースにより、第1世代ではセンサ周辺のみの用途であったものが、パフォーマンスの向上に併せて幅広い用途に対応できるようになるという

フルデジタルの回路実装でプロセスの微細化にも対応

akidaアーキテクチャの最大のポイントはニューロモーフィックでありながらフルデジタルでの回路実装が可能な点。Hehir CEOは、「AKD1000はTSMCの28nmプロセスで製造した。TSMCのほか、GlobalFoundries(GF)でも製造可能だし、最近はIntel Foundry Service(IFS)もパートナーとして利用できるようになるなど、フルデジタルだからこそ、ファブに依存しない製造が可能だ」と、その強みを強調する。

また、NPU内にSRAMを実装しており、かつプロセッシングについてもNPU側で行うことで外部とのやり取りを抑えることが可能。そのためエッジで求められる低消費電力かつ低メモリ、高速処理を実現できることに加え、「Temporal Event-based Neural Nets(TENNs)」による時系列を含んだモデルを構築できるため、通常のフレームベースでの処理に比べて必要な計算量を減らすことを可能としたとするほか、予知保全やバイタルサインの見極めなどといった分野に対して強みを出せることが特長だとする。「例えば、カメラでの物体検知での利用の場合、前の画像との差分を出していくことができ、ほかのソリューションと比べて軽量かつ高速に処理を行うことができる」(同)という。

さらに、4個のNPUを重ねることで1ノード構成とするが、このノード数をスケーラブルに変更することが可能。小さなノードでも、マルチパスでノードを使いまわすことで、大きなモデルを処理できるようにしていることで、小フットプリントでの実装を可能にしたともするほか、畳み込みレイヤの最後を空けておくことで、そこに新たなデータを加える形での追加学習をエッジ上でも可能としているともする。

加えて、第2世代ではCNN、DNN、RNNに加え、近年注目を集めるVision Transformer(ViT)に対応したほか、ニューラルネットワークの重みおよび演算入出力が新たに8ビットまで対応(第1世代は1/2/4ビット対応)しており、よりさまざまな処理にも対応が可能になったという。

  • Akidaアーキテクチャ
  • Akidaアーキテクチャ
  • Akidaアーキテクチャ
  • Akidaアーキテクチャ
  • Akidaアーキテクチャの概要とその特長。アーキテクチャの図のオレンジの丸1つひとつがNPUで4つ集まって1ノードという構成。NPUごとにメモリが搭載されており、それを活用することで外部メモリとの頻度を減らすことができる仕組みが採用されているという。また、プロセッサ側はArmならびにRISC-Vのパートナーシップが構築されている

なお、Hehir CEOのミッションの1つに「ライセンシー数を増やす」というものがあるという。IPベンダであるため、それがビジネスの拡大に直結するためだが、その実現のために同氏はハードウェアの特長のみならず、実際にユーザーがAkida IPをベースとしてAIを活用してもらうためのエコシステムも構築済みであることを強調している。「エコシステムもAIの知識がある場合とない場合で分けて構築済みで、ユーザー側にない場合であっても、アプリまで構築できるパートナーを紹介することができる。一方でAIの知見はある程度あるものの、モデルの構築までは行けないといったユーザーには、フレームワークまで構築できるパートナーを紹介できる。一からスクラッチできるユーザー向けにソフトウェアツールフロー『MetaTF』も提供済みであり、あらゆるレイヤのユーザーに活用してもらう準備が整った」としており、拡大していくことが予想されるエッジAI市場に対し、全力を挙げて勝ちにいくとしている。

  • BrainChipのエコシステム
  • BrainChipのエコシステム
  • BrainChipのエコシステム。開発パートナーによるユーザーの開発支援も可能な体制が構築済みなほか、ソフトウェア群や開発キットなどもすでに提供済み