田中貴金属グループの社内イノベーション組織・TANAKA未来研究所は、生物機能の解明や創薬活用が期待される「タンパク質結晶化実験」を、国際宇宙ステーション(ISS)船内で実施すると4月16日に発表。金(Au)のナノ粒子を活かし、宇宙空間における結晶発生率の向上などを検証する。
同研究所は、「Auのナノ構造形成技術を応用した宇宙空間分子結晶化実験ユニット」を開発し、特許出願中。これを米国時間4月21日にケネディ宇宙センターから打ち上げられるISS無人補給機「SpaceX CRS-32」に搭載し、ISSで実験を行う。実験には、有人宇宙システム(JAMSS)が提供する結晶生成サービス「Kirara」を利用。打ち上げから約2カ月で地上に帰還したあと、宇宙での結晶発生率と品質を検証する予定だ。
宇宙空間でのタンパク質結晶化実験は、重力の影響を排除できることから、タンパク質分子の詳細な構造解析に有用とされ、生物機能の解明や創薬に大きく寄与することが期待される。しかしこの実験では結晶の発生確率が非常に低く、高コストな宇宙実験における課題とされてきた。
TANAKA未来研究所が今回開発した実験ユニットは、金(Au)の「プラズモン共鳴」と呼ばれる現象を利用することで結晶発生確率を上げられ、より効果的な宇宙実験が行えると期待されている。プラズモン共鳴は、ナノレベルまで粒子化したAuの表面で特定の波長の光を吸収する現象のことで、Auナノ粒子がナノレベルの間隔まで接近すると、さらに増強されるという特徴がある。
同研究所では、Auナノ粒子間で光のエネルギーが凝縮されることで、タンパク質の結晶核の発生が促進されることを発見。宇宙空間という微小重力環境下では、重力による対流や沈降の影響を受けないため、地上よりも質の高い結晶や大型の結晶の生成が期待されるという。高コストで実験回数が限られる宇宙実験では、Auのプラズモン共鳴を活かしたタンパク質結晶化技術に優位性がある、との考えを同研究所は示している。
さらにAuのナノ構造形成技術と組み合わせて、タンパク質を結晶化させる手法のひとつである「カウンターディフュージョン法」で使う、結晶発生能力の高いキャピラリー(ガラス製の筒状デバイス)も開発しており、こちらも特許出願中とのこと。
キャピラリーのサイズは内径0.5mm、長さ5cmで、内壁にはナノ粒子化したAuを配置。粒子の直径平均値は20nmで、Au粒子の表面近くでプラズモン共鳴がより発生しやすいナノレベル間隔(表面間距離の平均値は40nm)で整列させている。
同研究所は、重力の影響を受けない宇宙空間で実験することに加え、新開発のユニットを利用することで、これまで困難とされていたタンパク質結晶を得られる確率の飛躍的な向上が期待される、と説明している。