ニデックは6月5日、電気自動車(EV)向けに駆動モータやさまざまなパワーエレクトロニクスを統合した同社として第3世代となるE-Axle(X-in-1システム)の半導体ソリューション構築に向けたPoC(Proof of Concept:概念実証)の開発をルネサス エレクトロニクスと協力して行っていくことを明らかにした。翌6日には、両社の担当者が登壇する形で説明会を実施。今回の協業の意図などの説明を行った。
統合化はE-Axcleを取り巻く世界的トレンド
ニデックの常務執行役員 副最高技術責任者で半導体ソリューションセンター所長 兼 ソリューション企画・戦略部長の大村隆司氏は、「バッテリーEV(BEV)の市場は現在、中国がトップであり、そこをニデックも主戦場にしている。中国はクルマがIoTの1部(IoV:Internet of Vehicle)であるという認識で、GB32960という規格のもと、中国内を走るクルマに関するさまざまなデータをクラウドに吸い上げ、中国政府がモニタリングできる状況になっており、これがBEVやxEVの急峻な進化を後押ししている政策になっている」と、最大市場である中国の現在の状況を説明。また、そうした技術変革に伴い、「BEVで自動車がシンプルになっている。ニデックにも恩恵があるが、新規参入の企業も増加。中にはHuaweiのようにX-in-1(DriveONE All-in-1電気駆動システム)を武器に市場拡大を目指している企業もあり、ニデックとしても対応を進める必要がある」との現状認識を示す。
すでにニデックでもE-Axcleとしてモータ、インバータ+マイコン、変速機を組み合わせた第2世代品を展開しており、パワーエレクトロニクスの制御も、DC/DCコンバータ、OBC(On Board Charger)、PDU(Power Distribution Unit:電源分配ユニット)を一体化させた3-in-1ユニットが展開されている。「第3世代はすべてが入るAll-in-1になっていく。さらなる統合によって、部品点数の削減につながるほか、部品の共通化によるプラットフォーム展開によってコストメリットが出せるようになる」(同)とさらなる統合が世界的なトレンドとなっており、そうしたニーズを理解していく必要性があることを強調する。
次世代E-AxcleのPoC開発でルネサスと協力を決めた背景
一方で、「次世代のX-in-1の開発に向けたサプライヤの選定を行う必要があったが、なかなか各社の情報を集めただけでは、どこのサプライヤが今後のX-in-1のトレンドに沿ったパートナーとするか悩ましい状況であることが判明した。逆に言うと、現段階では、我々が考える方向性にマッチするベストなサプライヤがまだないということ」と、簡単に次世代のE-Axcle開発に歩を進めるには難しい状況であるとの判断を下したことも説明。その結果、「さまざまな必要とする半導体ごとにRFI(Request For Information:情報提供依頼書)を作って、それこそMOSFETについては中国メーカー含め20社ほどに至るまで提供を依頼した。RFIからRFQ(Request for Quotation:見積依頼書)に進む段階で、将来の付加価値を生むような技術を入れないといけない。そこでプロコン(Pros/Cons)分析が必要となるが、そのメリット/デメリットを考えていく上で、それらに対応できる半導体デバイスをサプライヤに求めるにも、一度問題解決のためにPoCを開発する必要があると判断した。そのために、RFIのインフォメーションの中で、もっとも前向きに検討してくれたのがルネサスで、一緒に問題を解決していけるものと思った」と、一連の探索作業の中で将来の可能性がもっと感じられた企業がルネサスであったことを同氏は説明する。
また、「なかなか日本ではRFQを書いてくれるティア1やOEMがいない。我々としても、それを書いてサプライヤに出したいが、X-in-1のシステムを考えると、まだそれを書ける自信がない。だからこそ、パートナーと一緒になってコラボレーションを加速させて、RFQが書けるようになりたい」と、PoCを開発する意義を強調。ただし、今回の協業はあくまで第3世代のE-Axcleを実現するためのPoCの開発を2社が協力して進めていくというもので、「必ずしもこの協業がそのままルネサスの製品を次世代E-Axcleで採用することにはつながらない。それぞれの必要とするデバイスごとに最適なサプライヤを選定する」ともしている。
2段構えの協業を予定
一方のルネサス側も今回の協業を通じて、「PoC開発で、本当にカスタマがE-Axcleの構築に対して半導体に求める部分は何なのかが分かることができるようになる。それが知見や製品ラインナップの強化につながり、ソフトウェア側の提供も含めて、顧客体験を向上させることができるようになる」(同社執行役員 兼 ハイパフォーマンスコンピューティング・アナログ&パワーソリューショングループ 共同ジェネラルマネージャーのVivek Bhan(ヴィヴェック・バーン)氏)と、本当に顧客が必要とする半導体といったものへの理解が深まる点にメリットを感じているとしており、「ニデックのE-Axcleの知識にルネサスが半導体を提供することで、業界最高クラスの性能、効率、小型・軽量、低コスト化が可能なPoCの実現につながる」との期待を述べている。
なお両社は、今回の協業第1弾の取り組みとして、2023年末までにモータ、インバータ、ギヤの3-in-1システムに、パワーエレクトロニクス側のDC/DCコンバータ、OBC、PDUも搭載させたSiCパワー半導体を活用した6-in-1のPoCを開発する計画としているほか、第2弾の取り組みとして2024年には、そこにさらにバッテリマネジメントシステム(BMS)などほかの機能も統合し、かつDC/DCコンバータならびにOBCをGaNに置き換えることで、さらなる高集積化、小型化、低コスト化などを目指す取り組みを進める予定としている。
また、ルネサスでは、この取り組みで開発したPoCをE-Axcleのリファレンスデザインのベースとして活用していく予定としており、それを踏まえたX-in-1システム向けターンキーソリューションの開発につなげたいとしている。