東京大学(東大)は5月30日、米国の65歳以上の高齢者を対象とした大規模な医療データを用いて、日本と同様に西洋医学のみを教える医学校を卒業した医師と、米国独自の医学体系であるオステオパシー医学を中心に教えてきた医学校を卒業した医師が治療した入院患者の転帰(死亡率・再入院率)や行われた医療のプロセスが、同等であることが明らかにされたことを発表した。

同成果は、東大大学院 医学系研究科の宮脇敦士助教、米・カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の津川友介准教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国内科学会の刊行する学術誌「Annals of Internal Medicine」に掲載された。

米国には、成り立ちの異なる2つの医学校として、Medical Doctor(MD)養成校と、Doctor of Osteopathic Medicine(DO)養成校がある。前者は伝統的な西洋医学を、後者はオステオパシー医学と呼ばれる医療アプローチを基盤にしており、どちらの医学校の学生でも、4年間の教育を受けた後、臨床研修(レジデンシー)を経て医師として働くことが可能だ。米国ではMD医師が多数派で、全医師の90%を占める。

オステオパシーは、手技療法や運動療法などを用いて、身体の自然治癒力を高めることに重点を置いた医学体系とされており、過去には両養成校の教育内容は大きく異なっていたものの、現在は両校の学位プログラムはほぼ同じとなっているという(DO養成校ではオステオパシー手技療法の授業と実習があるなど、一部違いもある)。

しかし、実際に両養成校で受ける医学教育や卒業後のトレーニングには違いがあるのではないか、という可能性について議論が続いており、それを背景に、レジデンシーにおけるDO医師に対する不公平な扱いも問題になっているという。また、そもそも両医師とも同様に処方や手術ができる資格であることが一般に知られていないという問題もあったともする。

MD医師が大勢を占める米国の医療システムにおいて、DO医師が果たす役割(地方や経済的に貧しい地域で診療を行うDO医師が多く、近年はDO医師は増加傾向にあるともされる)を踏まえると、両者が治療した患者の転帰に違いがあるかどうかを評価することは重要だと研究チームでは説明する。

  • 米国におけるDO医師の割合の推移(2010~2020)。

    米国におけるDO医師の割合の推移(2010~2020)。(出所:)

そこで研究チームは今回、米国の大規模データ「メディケアデータ」(65歳以上の高齢者を対象とした診療報酬データ)を用いて、それぞれの医師が治療した緊急入院患者のアウトカム(30日患者死亡率、30日再入院)、入院期間、医療費の比較を行ったという。

今回の研究では、ホスピタリスト(入院患者のみを診る医師)に注目したとのこと。通常、ホスピタリストはシフト制で勤務するため、患者を選べない。また同時に、分析は患者が医師を選べない緊急入院患者のみに限定された。このような状況では、両医師への「患者の割付」が同じ病院内であればほぼランダムに近い状況と考えられるため、患者の重症度の違いが結果を歪めることを防げるとする。

医師の同定には、医師のオンラインソーシャルネットワーキングサービス「Doximity」のデータが用いられた。同サービスでは、登録者が自ら学位を登録するが、先行研究からその登録内容の妥当性が高いことが示されている(メディケアデータに記録のある医師の92%が同サービスにも登録)。なお、米国には海外出身の医師も多く働いているため、米国外の医学部の卒業生は除外された。