浜松医科大学は5月26日、パパニコロウ染色された子宮頸部液状化検体細胞診(LBC)標本を迅速に診断する人工知能(AI)を開発し、半教師あり学習と呼ばれるAIの学習手法を用いて、通常の1/10程度の学習データであっても高性能なAIを開発したことを発表した。
同成果は、浜松医科大大学院 医学系研究科 光医工学共同専攻の栗田佑希大学院生(再生・感染病理学講座、先進機器共用推進部)らの研究チームによるもの。詳細は、米オンライン科学誌「PLOS ONE」に掲載された。
細胞診標本の確認作業では、細胞検査士と病理医が顕微鏡を用いて1つ1つ手作業で観察している。ダブルチェックをしながらの標本観察は肉体的な負荷が大きく、高ストレスな作業だという。研究チームは今回、標本観察の一部をAIに任せることができれば、細胞検査士と病理医の肉体的な負荷とストレスを軽減できると考えたという。
しかし高性能なAIを開発するには、相当量の学習データが必要であり、人手でラベル付けをする作業には途方もない時間がかかってしまう。この課題を解決するために、半教師あり学習手法を用い、必要なラベル付きデータの量を削減したとする。そして以下の通りの手法が開発された。
- パパニコロウ染色された子宮頸部LBC標本をデジタル化し、タイル状に分割(タイル画像)
- タイル画像を「異常な細胞が存在しない」グループと「異常な細胞が存在する」グループに分類(ラベル付け)
- 2グループの画像を用いてAI学習を実施
- テスト用データで性能を評価
今回開発されたAIは、テストデータにおいて、AUC:0.908、特異度90.1%、F1スコア0.832を達成したという。さらに、細胞診パパニコロウ染色の学習において、水増し手法にRandom Grid Shuffleを適用することで性能が向上することを見出したとする。研究チームによると、今回開発されたAIで標本観察を行うことで、1枚の標本を30秒以内で判定することが可能になり、細胞検査士と病理医の負担を大幅に軽減することができるとしている。
研究チームは、今回のAIは子宮頸部LBC標本に特化したものであり、実臨床での利用に向けてはさらなる評価が必要だとする。そして今後、AIが判定した結果に対して細胞検査士や病理医が確認を行うことで、AIと人間の判断を組み合わせた診断システムの構築が期待されるという。またそれに加え、ほかの種類の細胞診標本にも応用が可能かどうかを検討する必要があるとしており、今回の成果を基盤として、より多くの患者さんに迅速かつ正確な診断を提供できるよう、研究を進めていくとした。