宇宙航空研究開発機構(JAXA)は4月27日、H3ロケット初号機の打ち上げ失敗原因について、調査状況を文部科学省の有識者会合にて報告した。まだ原因の特定には至っていないものの、第2段エンジンで短絡/地絡が発生した可能性が高いことを突き止めており、計17の故障シナリオを抽出、検証を進めていることが明らかにされた。

  • 種子島宇宙センターより打ち上げられたH3ロケット初号機

    種子島宇宙センターより打ち上げられたH3ロケット初号機

短絡/地絡が発生したという推定の根拠は?

H3ロケット初号機は、3月7日に打ち上げを実施。第1段の飛行に問題は無かったものの、第2段エンジンの着火が行われず、衛星の軌道投入に失敗していた。前回の報告では、着火やバルブ制御を行う「ニューマティックパッケージ」(PNP)で電流異常を検出、その結果として電源が遮断され、着火が行われなかったことまで分かっていた

参考:H3ロケット初号機の打ち上げ失敗は過電流による電源遮断が原因か?

この異常を引き起こした要因として、前回は、以下の3つを推定。今回、3種類の再現試験を行い、電気的な挙動を調べた結果、(3)の「下流機器の短絡/地絡」の可能性が高いことを突き止めた。この再現試験では、H3ロケット3号機の機体まで使われたという。

  1. 過電流の誤検知
  2. 消費電流が過大
  3. 下流機器の短絡/地絡
  • 今回実施された再現試験

    今回実施された再現試験。実機相当の機器や、実機そのものが使われた (C)JAXA

上記(1)は、「実際には過電流は発生していないのに誤検知してしまった」という想定のケースだ。これについては、回路設計の専門家も交えたレビューを実施し、意図通りの設計であったことを確認。着火を模擬した再現試験でも、問題無く動作しており、フライト時に誤作動することはないと結論付けた。

ただ、過電流の検知回路が正常ではなく、故障した可能性は残っている。しかし、H3ロケットでは、電源は冗長構成になっているため、今回の異常が発生するためには、A系/B系の検知回路が同時に故障する必要がある。可能性としては残るものの、確率的には、極めて小さくなったと考えて良いだろう。

なお今回の報告では、電源の冗長構成について、JAXAから補足説明があった。初号機のフライトでは、A系/B系の両系で同時に過電流を検出し、両方の電源を遮断していたのだが、この動作だとその時点で失敗が確定してしまう。そのため、B系は異常を検出しても電源を遮断しない方法も考えられたのでは、という疑問が出ていた。

  • 第2段エンジンの電源は冗長になっている

    第2段エンジンの電源は冗長になっている。エンジン側はシングル構成だ (C)JAXA

もし、最初にA系電源だけ動かしておいて、故障したときにB系電源を起動して引き継ぐ、という仕組みになっていれば、前述の方法は成立するかもしれない。しかし問題は、両方の電源が実際には、同時に動作するアクティブ冗長になっていることだ。これは、着火信号などは、切り替え時でも取りこぼしが許されない信号であるためだ。

そのため、前述のように「A系が故障したあとであればB系は異常を検知しても電力供給を継続する」ようにロジックを組んだ場合でも、B系の故障時には、そもそも、A系が故障しているのかどうか正しく判断できない可能性がある。その場合、A系は正常なのに、故障したB系が過電流を放置したため、破壊に至ることも考えられる。

  • JAXAがB系の電力供給を継続するロジックを採用しなかった理由

    JAXAがB系の電力供給を継続するロジックを採用しなかった理由 (C)JAXA

つまり、B系の故障だけで飛行が失敗し、冗長の意味が無くなってしまう可能性があるというわけだ。ただ、いずれにしろ、今回のようにエンジンのシングル構成の部分で異常が発生した場合には、電源の冗長では問題を回避することはできない。

次の(2)は、「各機器は正常に動作していたのに消費電流が過大になった」という想定のケースだ。過電流が検出された着火のタイミングは、電源がオンになる機器が多く、消費電流が大きく増える瞬間だった。そのため、正常な動作であっても過電流として検知された疑いがあったが、今回、再現試験の結果により、この可能性は排除された。

オンになる各機器の消費電流の合計値は、過電流として検知される閾値よりも、十分に小さいことを確認。また、電源オンの瞬間に一時的に増大する突入電流についても、検知する時間幅よりも十分短かったことが分かり、これで過電流として検出されることは無いと結論付けた。

  • グラフはイメージ

    グラフはイメージだが、これで過電流として検知されることは無い (C)JAXA

最後の(3)は、「PNP下流機器の短絡/地絡で実際に過電流が発生した」という想定のケースだ。PNP下流機器での短絡/地絡であれば、着火のタイミングでの異常検知という事象に無理なく説明が付く。短絡/地絡を模擬した再現試験でも、検知機能が想定通り動くことを確認しており、現状では、これが最も可能性が高いと推測されている。