次に、MWNT配線形成のメカニズムについての検討も行われた。電子顕微鏡による配線の観察を行ったところ、中心部に厚いMWNT/PP複合体が形成されていることが確認されたとする。

MWNTにレーザーを照射することで発生した熱は各層に伝わるが、MWNT層の方がPP層よりも熱を伝導しやすいため、MWNTとPPの界面が高温になる。そのためPPからMWNT層への拡散が生じ、特に、レーザーの中心は高温となることで、基板から大量のPPがMWNT層に拡散する。

一方、レーザーの端は低温となるため、PPは少量しかMWNT層に拡散しない。したがって、レーザーの中心では厚いMWNT/PP複合体が、レーザーの端では薄いMWNT/PP複合体が形成されることが明らかになった。また、レーザー出力が増加するにつれてMWNT/PP複合体の厚さが増加するため、抵抗が減少することが示唆されたという。

以上のメカニズムが解明されたことにより、レーザー条件の変化が異なる抵抗値を持つMWNT配線の形成に影響することが裏付けられたとしている。

さらに、MWNT配線の柔軟性を調べるため、繰り返し曲げたときの抵抗値の変化が調べられた。その結果、1000回の曲げサイクルの後でも抵抗値は変化せず、ほとんど一定であることがわかったという。一般的に、MWNTとポリマー複合材料は変形によって抵抗が変化することが知られている。これは、材料に力が加わることでMWNT間の距離が増加し、導電経路数が減少することが原因であると考えられている。その一方で、今回の手法で作製されたMWNT配線は、MWNT/PP複合体が高密度なため、繰り返し折り曲げても導電経路数に影響しないことが示唆されたとする。

最後に、PP基板上の未使用のMWNTのリサイクルについての検討が行われた。レーザーが照射されていない領域のMWNTを回収し、新たなMWNT水溶液の調製を行ったところ、同溶液を再び噴霧して製造されたMWNT配線の抵抗は変化していないとした。つまり同手法により、従来の熱溶融法よりもMWNTの使用量を削減でき、効率的に使用できることが実証されたとする。

研究チームは今回の研究成果について、従来に比べ、プロセスコストを大幅に低減できると考えられることから、大量普及が期待される貼り付け型センサの実現に貢献できるとしている。