2022年4月5日に早稲田大学(早大)の“関連”企業として、VC(ベンチャーキャピタル)の「早稲田大学ベンチャーズ(WUV)」(東京都新宿区)が資本金1000万円で設立された。

同社の大野聡子CFO(最高財務責任者、図1)は「この早稲田大学“関連”企業という意味は、設立時の株主の出資比率がWUVパートナーズ有限責任事業組合80%、早大20%という比率にした結果、当社は早大の直系の子会社ではなく、独立的な立場でベンチャー企業への投資判断を下せる、早大と距離感を持った会社という立ち位置になってといる」と解説し、「独立した存在のVCになっている」ことを強調する。

  • 早稲田大学ベンチャーズの大野聡子CFO

    図1 早稲田大学ベンチャーズの大野聡子CFO(最高財務責任者)。公認会計士

この結果「当社は、投資先となる創業前後の若いベンチャー企業の事業成長性などを独自に的確に判断し、日本・世界の進化・成長に役立つベンチャー企業を育てる役目を果たすVCとして成長していく」と話す。そして「当社の投資対象は“デープテック”と呼ばれる学問・学術に裏付けられた、独創的な研究開発を起点とした新規事業を起こす先鋭的なベンチャー企業になる」と、大野CFOは解説する。

早稲田大学ベンチャーズは創業した2022年内に早大が産み出した“尖った”研究開発成果を基に事業化を図るベンチャー企業2社に投資した。その第一号は、「Nanofiber Quantum Technologies」(東京都新宿区)である。早稲田大学ベンチャーズは2022年8月29日に、創業間もない段階にある同社に、事業化を進める資金として2億円をまず投資した。

このNanofiber Quantum Technologiesは、早大理工学術院の青木隆朗教授が研究開発中のナノファイバーQED(量子電気力学)共振器を基に、規模が大きい量子コンピューターの実用化を目指している。「単一ユニットで1万ビット程度、さらに多数のユニットを接続しネットワーク化すると、大規模化ができる量子コンピューターの実用化を進める事業化を目指す点を、当社は高く評価した」と、大野CFOはいう。

さらに、このNanofiber Quantum TechnologiesのCEO(最高経営責任者)に、大手コンサルタント企業である米マッキンゼー・アンド・カンパニー社出身の廣瀬雅氏が就任した点も高く評価し、今回の投資に踏み切った模様だ。さらに「米コロラド大学などの米国大学で量子工学の研究開発を続け、その後は青木教授とナノファイバーQEDの研究開発を共同で続けてきた碁盤晃久(ごうばんあきひさ)氏が同社のCTO(最高技術責任者)に就任したことも高く評価した」と解説する。

このNanofiber Quantum Technologiesへの2億円の投資は、早稲田大学ベンチャーズがWUV1号ファンドを設立したと公表した2022年8月23日から1週間も経たない8月29日に公表された。同社はVCとして直ちに投資活動を始めたことになる(UV1号ファンドは同年8月8日に設けられている)。

続いて、2022年11月2日には、同社は投資第2号としてダイヤモンド基板の半導体技術の事業化を図っている「Power Diamond Systems」(東京都新宿区)に1億円を投資した。このPower Diamond Systems(図2)は、早大理工学術院の基幹理工学部の川原田洋教授が研究開発してきた成果を事業化することを目指すベンチャー企業である。そして「同社のCEOに、米マサチューセッツ工科大学(MIT)での多彩な研究実績を持ち、またベンチャー企業を経営した実績を持つ藤嶌辰也氏が代表取締役CEOに就任した点も高く評価して投資した」という。

  • Power Diamond Systems

    図2 Power Diamond Systems社のロゴ(同社のWebサイトから引用)

大野CFOは「早稲田大学ベンチャーズは現在、投資先3社目となる投資計画を進めている」と明かす。

現在、早稲田大学ベンチャーズには取締役が3人いる。VCとして投資実務などを担当するのは、その内の2人の代表取締役を務める山本哲也代氏と太田裕朗氏になる。もう一人の取締役は、取締役会長を務める阿部康行氏である。

VCとしての役割では、WUV1号ファンドVC設立1年未満の創業期なので、創業準備中や創業したばかりの早大関連のベンチャー企業への投資判断を先端的に下す。そして、投資先としたベンチャー企業に対しては当面の事業戦略などを当該ベンチャー企業の経営陣と協議して詰めていくことに邁進する。

早稲田大学ベンチャーズは創業1年未満なので、VCとしての中核事業を進める実務者はまだ5人に過ぎない。一般的に、VCは創業後1年ほどかけて、投資活動に必要不可欠な人材を集め、布陣を固めていく。このVC自身も、ある種の“ベンチャー企業”として成長を続けていくことになる。

逆に言えば、その設立されたばかりのVCが実施した投資先企業とその事業化内容などを見て、自分の投資判断が生きそうなVCになるかどうかを見極めて、初期のパートナー希望者は当該VCへの入社試験を受ける。この結果、1年間程度である程度の規模の人材がパートナーなどとして採用され、VCとしての基盤環境を整えていくことになる。

まず、2022年8月8日に同社はWUV1号ファンドを56.6億円で設立し、ベンチャー企業への投資活動の基盤を築いた。このWUV1号ファンドは、正式には「WUV1号投資事業有限責任組合」という名称で、存続期間10年で設けられた(延長も可能)。このWUV1号ファンドへの出資者は、産業革新投資機構(東京都港区)と大和証券グループ、みずほ銀行、みずほ証券、三井住友銀行の5社である。この10年の期間内に、ファンドは最大100億円まで増やす計画である。

このWUV1号ファンドは、現時点ではジェネラル・パートナーを山本哲也氏と太田裕朗氏の2人が、パートナーを丹羽大介氏が務める少数精鋭態勢で、現在は運用している。これからの人材拡充が、同社の基盤づくりの基本方針となる。