東京大学(東大)が直接100%出資して2016年1月21日に設立したVC(ベンチャー・キャピタル)である「東京大学協創プラットフォーム開発」(東大IPC、東京都文京区)は現在、2016年12月に設けた協創プラットフォーム開発1号投資事業有限責任組合(協創1号ファンド=共創1号250億円、運用期間15年間の予定)と2020年に設立した「オープンイノベーション推進1号投資ファンド(略称 AOI1号、240億円、15年間の予定)という2本の大きな投資ファンド(図1)によって、“東大系ベンチャー企業系”を発掘・投資し、さらに他のVCにも投資している。

  • 東大協創プラットフォーム開発

    図1 東大協創プラットフォーム開発(東大IPC)が運用している2つの投資ファンド (出所:東大IPC Webサイト)

国立大学法人が出資して設けた京都大学VC(京都市)、大阪大学VC(吹田市)、東北大学VC(仙台市)の3社に続いて、最後に設立された東大IPCは規模が一番大きい投資ファンドを運用している。東大IPCのWebサイトによると、この投資活動を担当するパートナーやマネージャーなどが現在、19人態勢で活動している。規模が大きい投資ファンドを適切にベンチャー企業(あるいはその“卵”企業)に投資予定期間内に投資する活動が活発に続けられている。

直近では、2022年12月14日に東大IPCは「協創1号ファンド」から、企業の人材採用などに関連したサービスのHuman Resources事業を展開するリーディングマーク(東京都港区)に2.6億円の投資を決めたと公表した。この投資は、マネーフォワード(東京都港区)などのVC5社との協調投資になっている。

この投資案件を担当した美馬傑パートナーは「リーディングマークが提供する『ミキワメ ウェルビーイング』サービスなどは、人材採用時やその後の人材マッチングに大きく役立ち、新規企業などの人材獲得・育成に大きく貢献する有効な人事サービスになっている」と語る。「新規企業などでの採用人事や人材育成に貢献する有望な事業として育つだろう」と高く評価している。「日本の既存の大手企業は人事ノウハウを持っているが、新規企業などはこの人事ノウハウがまだ確立していないケースもあり、人材育成や人材確保などに苦心するケースもある。こうした新規企業が安定して成長する人材育成の基盤づくりに貢献するだろう」と説明する。

この投資案件に続いて、東大IPCは12月15日にはRNA修飾酵素(RME)を標的とした低分子治療薬の研究開発を進める創薬ベンチャー企業STORM Therapeutics(英国ケンブリッジ市)にやはり「協創1号ファンド」から協調投資を実行している

リーディングマークとSTORMの2社は、ともに東大の教授とそれぞれ共同研究していることから「東大の研究開発成果を生かす」範疇に入っている新規企業になる。この点が、東大IPCの事業内容に一致しているため、投資対象案件となる。

注1:東大にとって初めてのVCは、東京大学エッジキャピタル(UTEC、東京都文京区)になる。UTECは、2004年4月に東大関連の一般社団法人東京大学産学連携支援基金が出資し、東大が承認する「技術移転関連事業者」として設立されたVCである。なお、これに対して東京大学協創プラットフォームは、東京大が直接100%出資して設立したVCという違いがある。

注2:国立大学法人傘下のVCでは、阪大傘下の大阪大学ベンチャーキャピタル(大阪府吹田市)、京大傘下の京都大学イノベーションキャピタル(京都市)、そして東北大傘下の東北大学ベンチャーパートナーズ(THVP、仙台市)の3社があり、投資活動を行っている。2014年6月14日に安倍晋三内閣(当時)は、閣議決定として日本再興戦略の中に“大学改革”の項目を入れ、「今後10年間で、20件以上の『大学発新産業創出』を目指す」とした。その達成手法として「国立大学による大学発ベンチャー支援ファンド等への出資を可能とする」と書かれている。その前段階として政府は、2012年度の補正予算で、政府は東大などの4国立大学に合計1000億円を出資する動きをとった。東北大に125億円、阪大に166億円、京大に292億円、東大に417億円がそれぞれ出資された。これが各大学傘下のVC設立の資金になっている。