1段実機型タンクステージ燃焼試験(CFT)

  • CFTにおいてLE-9の燃焼試験を行うH3

    CFTにおいてLE-9の燃焼試験を行うH3 (C) 渡部韻

CFTは2022年11月6日から8日にかけて行われた。7日16時30分にはLE-9エンジンに点火し燃焼を行うという最大のハイライトを迎え、試験は終了した。

その後、必要なデータの取得ができたことを確認。さらに、取得したデータの詳細な分析、評価が行われた結果、所期の目標を達成したと判断され、「CFTを完了した」ことが発表された。

なお、CFTを通じては、打ち上げに向けて改善や反映を要する大小さまざまな事項が抽出された。もっとも、これはCFTが失敗だったというわけではなく、こうした改善点などを洗い出すのがCFTのそもそもの目的である。

主な改善を要する点としては以下の3つが挙げられた。

1. 1段液体酸素加圧配管接手部の漏洩(試験後)

概要

液体酸素/液体水素充填時のタンク熱収縮により加圧配管が変形し、これに伴い接手部に発生した荷重によりシールが変形。試験後の常温復帰時、配管の変形が戻った際に接手に隙間が生じ、変形したシールの隙間から漏洩したものと推定。

改善策

接手を設計変更した一部の配管を交換するとともに、ボルト締め付け等の手順を変更。

2. 1段液体酸素タンク上部ドーム部リリーフバルブにおける振動環境条件規定の超過

概要

加圧・排気時のガス流動によりタンクドームが振動し、軽量のリリーフバルブが設計上の環境条件規定を超過したものと推定。

改善策

リリーフバルブの環境条件を再評価し、CFTの結果を踏まえ、フライト時に想定される環境条件下でのバルブ単体の振動試験を実施して耐性を確認。

3. 2段機器搭載部等における振動環境条件規定の超過

概要

燃焼試験時の煙道出口からの音響により、2段機器搭載部等が加振され、環境条件規定を超過したものと推定。

改善策

環境条件規定を見直すこととし、耐性を評価。詳細評価が必要とされた慣性センサーについては、追加の認定試験による検証を実施。

これらの改修は難しくはなく、記者説明会が開かれた20日の時点で、「すでに改善事項などを試験機1号機の機体や設備に反映しつつある段階」だという。

  • CFTを受けた改善点の、「1段液体酸素加圧配管接手部の漏洩(試験後)」

    CFTを受けた改善点の、「1段液体酸素加圧配管接手部の漏洩(試験後)」と「1段液体酸素タンク上部ドーム部リリーフバルブにおける振動環境条件規定の超過」の概要と改善策 (C) JAXA

  • CFTを受けた改善点

    CFTを受けた改善点の、「2段機器搭載部等における振動環境条件規定の超過」の概要と改善策 (C) JAXA

開発の責任者を務める、JAXAの岡田匡史プロジェクト・マネージャーは、CFTを振り返って、「長かったですね。CFTは一発で仕上げる覚悟で臨みました。もちろん、試験でなにも課題が出ないと思っていたわけではありませんが、出てきた課題に対してどのように改善するかで少し時間がかかりました」と語った。

「その対応策が具体化でき、めどが立ったことで、打ち上げに向けた作業に移る準備が整いました」。

イプシロン6号機打ち上げ失敗にともなう改修も

CFTとそれにともなう改修と並行して、「イプシロン」ロケット6号機の打ち上げ失敗を受けた改修も施された。

既報のとおり、イプシロン6号機は10月12日に打ち上げられるも、ロケットに異常が発生したため指令破壊信号が送られ、打ち上げに失敗した。その原因調査は記事執筆時点(12月26日)も続いているが、原因となった箇所の特定と、その要因がおおよそ絞り込まれてきている。

そこで、可能性があるとされている要因のうち、H3と関係のある部分について、転ばぬ先の杖として改修が行われた。

改修が行われたのは、H3の2段目にあるガスジェット装置のパイロ弁である。パイロ弁とは、飛行前は推進薬を遮断し、飛行中に火工品の点火により流路を開通させるバルブのことで、イプシロン6号機ではこの部分で不具合が起きたことが、原因の可能性のひとつとして考えられている。

H3用でもともと使う予定だったパイロ弁は、イプシロン用のものとは製品としては異なるものの、製造元と作動原理が同じだった。つまり、もしイプシロン6号機の失敗原因がこの部分であったなら、H3でも同様のトラブルが発生する可能性がある。そこで、製造元と作動原理が異なり、なおかつ十分な実績のあるH-IIAロケットのパイロ弁に交換することとなり、それに合わせ「パイロ弁および上下流配管等の変更」、「点火信号送出タイミングの変更(同時化)」といった設計変更も実施された。

打ち上げ間近という土壇場での設計変更ではあったものの、開発用供試体を使った音響試験により機械的環境への耐性を確認し、設計変更を完了。並行して、試験機1号機用のパイロ弁の交換も完了。今後工場でパイロ弁へ推進薬を充填して、種子島宇宙センターの射場にて取り付けを行う予定となっている。

なお、試験機2号機以降のパイロ弁をどうするかは、今後のイプシロン6号機の調査結果などを踏まえて検討していくとしている。

  • イプシロンロケット6号機失敗の水平展の概要

    イプシロンロケット6号機失敗の水平展の概要 (C) JAXA

打ち上げは2月12日を予定

LE-9の技術的課題が解決し、CFTをクリアし、そして改善点の反映も進んでいることから、JAXAは「H3試験機1号機に向けた開発はおおむね完了した状況」とした。

これからは、必要な検証を入念に行ったうえで、打ち上げの準備作業が始まることになる。まずそのなかで大きなものは、機体の仕様をCFT形態から打ち上げ形態に変更することにある。

前述のように、CFTはLE-9などの第1段推進系や2段目、フェアリングなどは実際に飛行するものを装備していたものの、SRB-3はなく、衛星も搭載しておらず、火工品も未結線の状態だった。そのため、これらを打ち上げのために装着、搭載する必要がある。また、そのうえで、推進系、電気系などの機能点検を行う必要もある。

そして12月23日、JAXAはH3試験機1号機の打ち上げを、2023年2月12日に実施すると発表した。

岡田プロマネは「いよいよこれから打ち上げに向けた準備に入っていきます。ゴールを目指し、いままで以上にJAXAとメーカーと力を合わせ、がんばっていきます」と期待を述べた。

2014年の開発開始からまもなく9年。立ちふさがったいくつもの高い山を登りきり、待ち焦がれたときがいよいよ訪れようとしている。

まさに「Per aspera ad astra(困難を乗り越えて星々へ)」。その瞬間まで、あと1か月あまりである。

  • CFTを終え、射点にたたずむH3

    CFTを終え、射点にたたずむH3 (C) 渡部韻

参考文献

JAXA | H3ロケット試験機1号機による先進光学衛星「だいち3号」(ALOS-3)の打上げについて
H3×ALOS-3特設サイト | ファン!ファン!JAXA!
JAXA | H3ロケット
令和4年度 ロケット打上げ計画書 先進光学衛星(ALOS-3)/H3 ロケット試験機 1 号機(H3・TF1) 令和4年12月 国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構