また、従来のメカニズムでは説明できない傾向が確認され、光電熱効果による整流検出機構の発現が示唆されるとした。この新たなユニポーラ型の光電熱型検出機構として、下記のような仮説が立てられた。

  1. テラヘルツ波の照射により、そのエネルギーを吸収したグラフェンチャネル中の電子がホットになり、金属電極であるソース・ドレインの両電極に多数凝集して存在するクールな電子群との空間的な温度勾配によって、温度の低い電極に拡散移動する(熱拡散)。

  2. ソース・ドレイン両電極が同一の金属種であれば、ドレインバイアスがゼロの場合、グラフェンチャネルと金属電極間のポテンシャル勾配はソース・ドレイン間で対象的であり、電子の熱拡散は等方的に発生。そのため、熱拡散電子流に伴う電流成分はソース電極とドレイン電極に等しく流入するため、互いに相殺し合い、光起電圧は発生しない。

  3. 一方、ドレインに直流バイアスを印加すると、チャネル内にソース・ドレイン方向にポテンシャルの勾配が生じるため、熱拡散電子流はポテンシャル勾配に従って、異方性が生じ、ポテンシャルの低い電極(ドレインに正バイアスを印加した場合は、ドレイン電極)への流れが多数派を占める。結果的に光起電圧が生じる。

  • ゲート1バイアスを高位に保ち、ゲート2バイアスを最低位(電荷中性点)から高位に変化させたときの光起電圧出力特性の変化

    ゲート1バイアスを高位に保ち、ゲート2バイアスを最低位(電荷中性点)から高位に変化させたときの光起電圧出力特性の変化(出所:東北大プレスリリースPDF)

そして検証の結果、仮説が支持され、新しいユニポーラ型の光電熱型検出機構が存在することが解明された。

ピーク光起電圧をもとに内因的電流検出感度および雑音等価電力のドレインバイアス依存性が算出されたところ、最大で0.3mA/Wの検出感度と166nW/√Hzの雑音等価電力が得られたとする。これらの値は、これまで報告されたグラフェン・テラヘルツ検出素子を超える性能とした。

今回の実験では、量産化可能なSiC基板上エピタキシャルグラフェンをもとに、標準的な半導体デバイスプロセス技術を用いて検出素子が作製された。また、すべての実験が室温下で行われた。今後さらに性能が向上すれば、6Gや7Gに用いられる、室温で動作可能で高速・高感度なテラヘルツ検出素子の実現が期待されるとした。