結晶の全種類の格子欠陥を満遍なく減らす方法より、悪影響の大きい欠陥を優先的になくす方法がデバイスの性能向上には効率的なことから、結晶内部の欠陥評価は、欠陥の空間分布だけでは不十分で、欠陥の種類を識別することも重要となる。

X線トポグラフィ観察法では、画像取得に用いる回折条件と格子欠陥の種類との相対関係によって、欠陥のコントラストが変わることから、それを利用し、複数の回折条件で同一場所の欠陥のコントラストを解析すれば、欠陥の種類を把握することが可能であり、観察結果をもとに、それぞれの暗線がどのような種類の欠陥と対応するのかを解析することができるようになるという。

今回用いられたEFG法による結晶では、成長方向と平行に伸びた、原子ズレの方向が異なる2種類の直線状の欠陥、および結晶表面と平行な面に存在し、成長方向の原子ズレを持つ曲線状の欠陥が主な欠陥種類であることが判明。このことから、異常透過を利用したX線トポグラフィ観察法は厚い結晶の内部に存在する欠陥の検出と分類に有効であることが確認されたとする。

  • 異常透過X線トポグラフィ像

    10mm×15mmの(001)面β-Ga2O3単結晶基板の異常透過X線トポグラフィ像。格子欠陥が縦線または曲線状の暗線として検出される。(撮影条件:波長0.124nm、回折ベクトルg=020、ビームラインBL24XU@SPring-8) (出所:兵庫県立大プレスリリースPDF)

さらに高度化するために、X線を波動として扱う動力学回折理論を用いた計算を行うことで、異常透過発生によるX線吸収の抑制効果を複数の回折条件で定量的に評価し、異常透過が最も顕著に現れる条件が厳密に決定された。それにより、通常より約1万倍強い透過波が得られる最適な回折条件が見出され、さまざまな面方位の結晶の欠陥分布をより高い面内分解能と短い露光時間で撮影することが可能になったという。

  • 入射波と回折波の干渉によって発生する定在波と原子面の位置関係

    (左)入射波と回折波の干渉によって発生する定在波と原子面の位置関係。(右)異常透過X線トポグラフィ観察法の光学系の模式図。(001)と(020)は結晶面の方向を示す指数 (出所:兵庫県立大プレスリリースPDF)

なお研究チームでは今後、今回のEFG法で成長させた結晶のほかに、さまざまな成長方法で育成されたβ-Ga2O3結晶の評価を行い、成長方法に依存する欠陥の特徴を把握した上で、β-Ga2O3結晶の作製に最適な育成方法を見出すための指針を構築するとしているほか、単結晶作製にとどまらず、今回の手法をデバイス評価に展開するともしている。特に、非破壊かつ高速応答なX線回折の特徴を活かし、動作中のデバイスにおける欠陥の挙動をリアルタイムで観察する方法を開発するとしており、結晶開発に役立てると同時に、欠陥のデバイスに及ぼす影響とその機構を解明することで、β-Ga2O3パワーデバイスの高性能と高信頼性の同時実現に貢献するとしている。