セイコーエプソンは9月27日、水晶デバイスや半導体などのマイクロデバイス事業についての説明会を開催した。

セイコーエプソン 執行役員 マイクロデバイス事業部長の下斗米信行氏は、「エプソンは、水晶技術と半導体技術の両方を持っており、その点では、世界的にも稀な企業である。温度安定性に優れた水晶デバイス、高精度および高安定なセンシングデバイス、小型および省電力のデバイスを安定供給ができる。この分野において、特徴ある製品を投入しており、高い収益性を維持している」と語ったほか、「マイクロデバイス事業は、成熟領域に位置づける事業であり、ROS(売上高利益率)で15%以上を継続的に確保することを目指している。さらに、ここから5ポイント上回る形で推移することを目指す。2025年度までは収益性を重視するとともに、先につながる技術開発も進める。2025年度以降のさらなる成長に向けた準備も進める」などと述べた。

  • セイコーエプソン 執行役員 マイクロデバイス事業部長の下斗米信行氏

    セイコーエプソン 執行役員 マイクロデバイス事業部長の下斗米信行氏 (提供:セイコーエプソン)

全売上高の約10%を占めるマイクロデバイス事業

マイクロデバイス事業の2021年度の売上高は1109億円(微細金属粉末事業、表面処理加工事業を含む)であり、エプソン全体の約10%を占める。

  • セイコーエプソンにおけるマイクロデバイス事業の位置づけ

    セイコーエプソンにおけるマイクロデバイス事業の位置づけ (提供:セイコーエプソン)

水晶デバイス事業の設備投資については、2021年度は前年比2倍、2022年度も2021年度と同等の投資を進めているという。

また、「半導体製品により、エプソン製品の価値を向上させることもマイクロデバイス事業の役割であり、それによって社会課題解決に向けた取り組みを進める。さらに、5Gなどの通信・ネットワーク領域、IoTによる民生・産業領域、EVや自動運転/ADASなどの車載領域に向けて、水晶と半導体の技術を持つ強みを活かした製品により、スマート化する社会の実現に貢献する」とコメントした。

  • 半導体の内製が、自社製品の価値を高めることにつながる

    半導体の内製が、自社製品の価値を高めることにつながる (提供:セイコーエプソン)

水晶と半導体の技術を掛け合わせた製品として、高周波発振器や高精度ジャイロセンサーをあげた。また、従来は周波数ごとに数100種類の発振器を用意し、小口生産が多かったが、水晶と半導体の技術を組み合わせることで、プログラムで周波数を変更できる形にしたことも成果のひとつにあげた。

適用アプリケーションの比率見直しで安定した利益創出が可能に

エプソンのマイクロデバイス事業は、これまでにも一定以上の利益創出を続けてきたが、水晶事業においては、携帯電話やモバイル機器などの大手顧客先への依存度が高かったことや、商品ラインアップの整備の遅れもあり、一時的に収益性が悪化した時期があった。だが、2017年以降は、需要変動の影響が大きいモバイル向けや民生用途向けの売上比率を下げ、産業機器、車載製品を中心としたバランスが取れた販売構成へと転換するとともに、製品ラインアップの整備や製造の効率化などにより、安定的な利益を生み出せる事業に転換。2020年度下期以降の需要拡大にあわせて、改善の成果が生まれているという。下斗米執行役員は、「今後も安定的な利益創出が可能な事業になっている」とした。

2021年度実績では、水晶デバイス事業の売上高の約4割が産業機器向けとなっており、モバイル向けは約1割に留まっている。

「産業の塩」としての役割を担う水晶デバイス

マイクロデバイス事業の主力となる水晶デバイスは、水晶振動子や水晶発振器といったタイミングデバイスと、ジャイロセンサーや加速度センサー、慣性計測ユニットなどのセンシングデバイスに分類される。

  • 水晶デバイスの概要
  • 水晶デバイスの概要
  • 水晶デバイスの概要 (提供:セイコーエプソン)

下斗米執行役員は、「半導体部品が『産業の米』と称されるのに対して、水晶デバイスは『産業の塩』と呼ばれる」と前置きし、「タイミングデバイスは、規則正しい電気信号を作るものであり、電子機器や電子装置に必要不可欠なデバイスである。デジタル機器の発達に伴い、あらゆる機器に水晶デバイスが搭載されている。また、センシングデバイスは、運動や温度、圧力などを検出するデバイスであり、様々な物理量を電気信号に変換することができる。人々の暮らしを豊かにするために、自動化や省人化、遠隔操作が進展するなかで、高精度が要求される民生機器、産業機器、車載機器、インフラ関連での利用が増加している」とした。

その上で、「エプソンの水晶デバイス事業は、クオーツウオッチ用デバイスの自前生産を起源として、様々な用途に向けて事業を拡大するなかで、『省・小・精の技術』を育んできた経緯がある。小型化、低コスト化、安定生産の実現に向けては、1970年代から導入したフォトリソ加工を採用し、業界のトップランナーとして、技術革新を先導してきた」と説明した。

また、人工水晶から水晶振動子、水晶発振器までの一貫した自社開発、独自の生産設備や検査設備を用いた自社生産を行っていること、水晶デバイスと半導体が一体となった商品開発や事業運営を行う垂直統合オペレーションを特徴にあげ、「水晶とICのエンジニアが同じ組織で設計を行うことで、水晶の特性を最大限に活かした特徴のある製品がいち早く実現でき、様々な顧客価値を創出し続けていることが、エプソンの水晶デバイスが高い評価を得ている要因である」と自己分析した。

  • マイクロデバイス事業の垂直統合オペレーションイメージ

    マイクロデバイス事業の垂直統合オペレーションイメージ (提供:セイコーエプソン)

エプソンは、水晶デバイスでは1743件の特許を保有し、圧倒的な数となっているほか、水晶ジャイロセンサーでも504件の特許を保有しているという。「これらの特許や製造技術がデバイスの性能を支えており、ワールドワイドでの安定したビジネス活動に貢献している」と述べた。また、海外の販売会社に加えて、代理店を通じた販売網やサポート網も強みになっていることも強調。「水晶デバイス市場は、2021年以降、需要が拡大しており、産業機器や車載向けの需要は堅調である。ここに、デジタル機器やIoT機器、通信インフラの増加なども加わり、継続的な事業成長を目指す」と述べた。

成長が見込まれる領域のラインアップ強化で成長を目指す

産業IoT向け製品として、プログラムの書き替えにより、任意の周波数が得られ、少量でも短いリードタイムで生産できる「プログラマブル-SPXO」のラインアップを強化。インフラ関連ではスマートメーターに使用にされる高精度小型RTCモジュールの低電力製品を投入。小型人工衛星などの姿勢・制振制御のアプリケーションに最適な慣性計測ユニットのラインアップ強化を進めるという。

また、車載市場向けには、EVや自動運転向けの戦略製品の投入を進め、EV向けのバッテリーマネジメントシステムに使用される小型高精度RTCモジュール、LiDARやADAS ECUに最適なプログラマブル発振器、独自のダブルT構造を採用し、耐衝撃性や耐振動特性を実現した車載ジャイロセンサーの品揃えを強化する考えだという。

さらに、民生市場向けには、小型無線モジュールやウェアラブル機器、ヘルスケア機器向けの小型MHz振動子、IoTモジュールや低パワーマイコン向けの32kHz振動子、カメラなどの光学手振れ補正や、掃除ロボットや搬送ロボットなどの直進制御用途向けの高精度ジャイロセンサーを提供。「需要変動が大きいアプリケーション比率をコントロールし、成長が見込まれる領域のラインアップを強化する」と発言。ネットワーク市場向けには、急拡大するデータトラフィックに対応した高周波発振器、高精度発振器のラインアップを拡充する考えも示し、光通信やデータセンター用途に加えて、新たに5G基地局に対応した製品開発を進めることも明らかにした。

そのほか、「コロナ禍では、需給逼迫の状況下でも、コロナワクチン輸送システム向けにTCXOシリーズを優先供給してきた。今後は、異常気象による災害への対応にも取り組んでいきたい」と語った。

半導体事業は、山形県酒田市の東北エプソンでの製造を中心に、設計、製造、販売までの一貫した事業展開を進めており、外販ビジネス、シリコンファウンドリ、エプソン製品向けの3つの事業に取り組むことで、高い工場稼働率の実現と、安定的な利益創出を継続しているという。

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    外販、ファウンドリ、エプソン製品向けの3つの事業展開で工場稼働率と安定した利益創出を継続 (提供:セイコーエプソン)

外販ビジネスでは、マイクロコントローラ、表示ドライバコントローラ、無接点充電用IC、USB-HUBコントローラ、各種ASICなどを開発。社内向けに培った技術をベースに需要変動が少ない産業機器、医療、車載製品を中心に展開することで利益を創出しているという。また、エプソン製品向けには、ウオッチに搭載する高精度、低消費電力の製品のほか、プリンターやプロジェクターに利用されるコアデバイスの駆動用ICなどを生産。「直近の半導体不足への対応として、代替製品の開発、供給によって、完成品の安定供給をサポートした」という。

一方、微細金属粉末事業は、青森県八戸市のエプソンアトミックスが担当。独自の製造技術により、数μm単位の微細な金属粉末製品を生産、販売しており、この分野では世界トップメーカーのひとつになっているという。水晶デバイスの基となる人工水晶の生産も行っている。

また、表面処理加工事業は、シンガポールのSingapore Epson Industrialが担当。時計の外装ケースのめっきで培った技術をもとに、電子機器や半導体、自動車、航空宇宙、医療、石油・ガスなどの多様な産業分野で利用される部品の表面処理加工を行っているという。