その結果、NbSe2に強磁性を誘起することに成功。具体的には、反射高速電子線回折という製膜モニタリング技術を利用してそれぞれの物質を一層ずつ制御しながら、分子線エピタキシー法により基板上で結晶成長させることで、原子レベルで急峻な界面を有する高品質な磁性vdWヘテロ構造を作製することに成功したという。
また、V5Se8の層数を系統的に変化させた一連の磁性vdWヘテロ構造試料が作製され、異常ホール効果の測定を通してその磁性が評価されたところ、V5Se8を単層極限まで薄くしてNbSe2の寄与を最大化した試料では、V5Se8が十分に厚いときとは逆の符号である「正の異常ホール効果」が出現することが確認されたとする。
さらに、正の異常ホール効果を示す試料に対して、同効果の外部磁場角度依存性の評価が行われたところ、「外部磁場を面内に傾けるとシグナルが増大する」という極めて異常な振る舞いが観測されたともする。
この2つの振る舞いについて研究チームでは、V5Se8単体やV5Se8が十分に厚いヘテロ構造試料では見られないため、界面で強磁性状態を形成したNbSe2が発現しているものと考えられるとしており、実際にそれを確かめるためにNbSe2が強磁性状態を形成した状況を仮定した上で、異常ホール効果の計算を行ったところ、2つの振る舞いをよく再現できたともしている。
これらの結果から、作製された磁性vdWヘテロ構造試料では、NbSe2が強磁性状態にあると結論づけられたと研究チームでは説明しているほか、強磁性NbSe2のバンド構造に対する考察から、この強磁性状態はスピンに加えてバレーも自発的に分極したフェロバレー強磁性であるという結論も得られたとする。
また、このフェロバレー強磁性をスピン流・バレー流のソースとして利用すれば、スピントロニクス・バレートロニクスの分野において新たな展開が期待されるとしているほか、非磁性金属に磁性を誘起できることを実証できたことから、将来的には、超伝導とフェロバレー強磁性が共存する「フェロバレー強磁性超伝導」や、量子コンピュータへの応用が期待される「トポロジカル超伝導」などを実現するためのプラットフォームになることが期待されるともしている。
なお研究チームでは、今回のアプローチをさまざまな物質系に適用することで、これまで磁性とは無縁だった物質の磁気的性質の開拓にもつながることが期待されるとしている。