東北大学、科学技術振興機構(JST)、中央大学、名古屋大学(名大)の4者は8月24日、ルテニウム(Ru)と塩素(Cl)から成る、磁気秩序を持たない量子スピン液体物質「α-RuCl3」に対し、円偏光パルスを照射した瞬間に磁化が発生する新しい仕組みを発見したことを発表した。
同成果は、東北大大学院 理学研究科の岩井伸一郎教授、同・天野辰哉特任研究員、同・大串研也教授、同・今井良宗准教授、同・若林裕助教授、中央大 理工学部の米満賢治教授、名大大学院 工学研究科の岸田英夫教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する物理とその関連分野を扱う学際的なオープンアクセスジャーナル「PHYSICAL REVIEW RESEARCH」に掲載された。
物質に光を照射すると磁化が生じる(磁石でない物質が磁石になる)現象は「光磁気効果」と呼ばれ、円偏光のスイッチング光によって、光の進行方向(試料面直方向)に磁化が生じる「逆ファラデー効果」はその代表例とされ、光による磁化の発生や高速制御の原理として知られている。
逆ファラデー効果は文字通りファラデー効果の逆過程として知られ、次世代の光磁気メモリなどに応用できるとして期待されている。しかしその対象物質は、主にスピンの方向が固定された反強磁性体や弱強磁性体などに限られていたほか、スピンの向きを変えるためには、比較的高いエネルギーが必要で、スピンの向きが変わる速度が低いことも課題とされていた。
そこで今回の研究では、量子スピン液体物質のα-RuCl3に対し、波長1.4μmの近赤外光の円偏光パルスを照射する実験が行われた。量子スピン液体は、低温でも秩序化しないスピン状態であり、α-RuCl3の場合は、絶対温度7K(約-266℃)まで下げても秩序化せず、磁石としての性質を持たないということを示すものだという。