理化学研究所(理研)と東京大学(東大)は8月30日、非平衡フォノン環境下に置かれた半導体二重量子ドット中の電子スピンのダイナミクスを実時間で観測することに成功し、フォノン励起により駆動されるスピン反転現象の統計を明らかにしたと発表した。

同成果は、理研 創発物性科学研究センター(CEMS)量子電子デバイス研究チームの黒山和幸特別研究員(現・東大 生産技術研究所(生研)助教)、CEMS 量子機能システム研究グループの松尾貞茂基礎科学特別研究員、同・樽茶清悟グループディレクター、東大大学院 工学系研究科の村本丈大学院生、九州大学の藪中俊介助教、筑波大学 理工情報生命学術院の都倉康弘教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する機関学術誌「Physical Review Letters」に掲載された。

熱機関から熱力学的な仕事を取り出すためには、熱力学第二法則の要請により、非平衡な温度環境下に量子ドットを配置する必要がある。しかし、固体の温度を示す「格子温度」については、量子ドットと同じ空間スケールの数百nmで温度変化(勾配)を形成することが難しいため、格子温度で駆動する量子ドット熱機関の実証はおろか、電子やそのスピンに対する熱力学的な作用さえ調べられていなかったという。

そこで研究チームは今回、GaAs半導体量子井戸上に二重量子ドットを作製したほか、二重量子ドットの左側近くに電荷計量子ドットを形成。各量子ドット内の電子数を実時間でモニターしたが、これは量子ドット間を遷移する電荷ダイナミクスを実時間で観測するというものだという。

また、二重量子ドット上に結晶中の格子振動をエネルギー量子化した準粒子であるフォノンを発生させるため、右側近くにフォノン源量子ドットを形成。この量子ドットに直流電圧(VPS)を加えることで、電圧に応じたエネルギーと個数のフォノンが放出される仕組みだという。

  • 今回の研究で測定された二重量子ドット試料の画像

    今回の研究で測定された二重量子ドット試料の画像と、その上に重ねた実験の模式図。表面電極で囲まれた黄色の丸の領域に二重量子ドットが形成され、電子が2個捕捉される。その左側の緑の領域に電荷計として機能する量子ドットが形成される。さらに、右側の赤い領域にも量子ドットが形成され、これに直流電圧VPSを加えて、フォノンが生成される (出所:東大生研Webサイト)