東京大学(東大)、理化学研究所(理研)、科学技術振興機構(JST)、京都先端科学大学(KUAS)、大阪大学(阪大)の5者は、ニオブとセレンの原子層数層からなる二次元金属「NbSe2」と、バナジウムとセレンからなる二次元強磁性体「V5Se8」を積層した「磁性ファンデルワールス(vdW)ヘテロ構造」を作製することに成功したと発表した。

また、実験と理論の比較から、このヘテロ構造の界面ではNbSe2中の伝導電子のスピンと、固体中電子にのみ定義される結晶運動量である「バレー」の両方が自発的に分極した「フェロバレー強磁性」という新しい状態が形成されていることを明らかにしたことも併せて発表された。

同成果は、東大大学院 工学系研究科 物理工学専攻の松岡秀樹大学院生(現・理研 創発物性科学研究センター(CEMS)創発デバイス研究チーム 基礎科学特別研究員)、北海道大学大学院 工学院/工学研究院の羽部哲朗研究員(現・KUAS ナガモリアクチュエータ研究所 助教)、東大大学院 工学系研究科 附属量子相エレクトロニクス研究センター(QPEC)/物理工学専攻の岩佐義宏教授(CEMS 創発デバイス研究チーム チームリーダー兼任)、阪大大学院 理学研究科の越野幹人教授、QPEC/物理工学専攻の中野匡規特任准教授(CEMS 創発機能界面研究ユニット ユニットリーダー兼任)らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

各層がvdWギャップで隔てられた構造を持つvdW物質を、原子層数層レベルにまで薄くして積層させた人工超構造のvdWヘテロ構造において、隣接する非磁性体に磁気的な性質を誘起できることから、構成物質の一方を磁性体とする磁性vdWヘテロ構造が注目されているという。

特に、強磁性体と非磁性金属を積層させた磁性vdWヘテロ構造では、もともと磁性とは縁のない物質に対しても原理的には磁性を導入でき、新物質や新機能の創出という観点から重要視されている。しかし、これまでのところ、非磁性金属に磁性(特に強磁性などの長距離磁気秩序)を誘起した例はなかったとする。

そこで研究チームは今回は、非磁性金属に二次元金属であるNbSe2超薄膜、強磁性体に二次元強磁性体であるV5Se8超薄膜を用いた磁性vdWヘテロ構造を作製することに挑んだという。