開発された多波長分光検出器は、回折格子を用いた分光器2台を接続していることが特徴。その光路中に、特定波長のみを減衰させる空間フィルターを設けることで、スペクトルの歪みを最小限に抑えつつ弾性散乱光を減衰させることが可能になったとする。スペクトル強度はアレイ検出器で波長ごとに計測されるので、高い波長分解能の検出が可能となる。回転ラマン散乱光スペクトルの幅が狭くなる深紫外波長のレーザーを光源とするラマンライダーにも適用可能とした。

また、大気からの微弱な散乱光を検出するラマンライダーは、太陽光がノイズとして重なる日中の観測精度にも課題があったとする。そこで今回は、過去に開発した、陽光にほとんど含まれない深紫外波長(ソーラーブラインド波長)のレーザーを用いた、「水蒸気ラマンライダー」を加えることにしたという。深紫外水蒸気ラマンライダーを用いて、これまでの実験では、通年の水蒸気量を昼夜連続で安定観測することに成功しているとした。

そして、この深紫外水蒸気ラマンライダーに、今回開発された気温計測部が組み合わされる形で、京大 生存圏研究所 信楽MU観測所にて、実証実験が行われたところ、計測された回転ラマン散乱光スペクトルは気温ごとに異なるスペクトル形状を示しており、また中心付近の強い弾性散乱光が除去されていることが確認されたとする。

  • 気温・水蒸気ラマンライダーの気象分野における活用イメージ

    気温・水蒸気ラマンライダーの気象分野における活用イメージ。雲生成前の大気を計測することで、大雨をもたらす雲の発生をより早期に予測できることが期待されている (出所:京大プレスリリースPDF)

ラマンライダーで計測された気温と、気球に直接観測装置を吊り下げて放球するラジオゾンデで観測された気温を比較すると、高度約1000mの大気境界層付近まで整合した気温分布が求まることが確認されたという。

  • 今回開発された多波長分光検出器の構成図

    今回開発された多波長分光検出器の構成図 (出所:京大プレスリリースPDF)

なお、研究チームでは今回の研究成果を活用することで、大気状態をより詳細に理解できるようになり、豪雨の予測精度が向上し、ひいては災害の低減に寄与することが期待されるとしており、今後について、安定性や保守性の改善に取り組み、気温・水蒸気量を同時計測するラマンライダーの社会実装に向けた実用化を進める予定としている。

  • 気温・水蒸気同時計測用ラマンライダーの構成図

    気温・水蒸気同時計測用ラマンライダーの構成図 (出所:京大プレスリリースPDF)