分子科学研究所(分子研)は8月5日、「単一原子レベルで世界最速の2量子ビットゲートに成功 -超高速量子コンピュータ実現へのブレークスルー-」と題した説明会を実施した。

内容としては、ほぼ絶対零度にまで冷却した2個の原子を光ピンセットでマイクロメートル間隔で並べ、10ピコ秒だけ発光する超短パルスレーザーで操作することで、量子コンピューティングに必要不可欠な基本演算要素である「2量子ビットゲート」の操作時間において、従来の半分以下の6.5ナノ秒で動作させることに成功したというものであった。

  • 分子研の冷却原子方式量子コンピュータにおける2量子ビットゲートの概念図

    分子研の冷却原子方式量子コンピュータにおける2量子ビットゲートの概念図。光ピンセット(赤い光)によって、マイクロメートル間隔で補足されたルビジウム原子2個を、10ピコ秒だけパルスレーザー(青い光)で操作する (出所:分子研プレゼン資料)

同成果は、分子研 光分子科学研究領域の周諭来大学院生、同・富田隆文特任助教、同・シルヴァン・ド・レセレウク助教、同・大森賢治教授らの研究チームによるもので、説明会にはこの4氏も参加した。なお、大森賢治教授は日本の量子コンピューティング研究の第一人者であり、文部科学省Q-LEAPと内閣府PRISMが重点支援する、超高速量子コンピュータ開発のための大規模・長期プロジェクト(2018-2028)を率いている。また2022年度からは、内閣府/JSTムーンショット型研究開発事業「2050年までに、経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現」のプロジェクトマネージャーにも選出された。

今回の研究成果の詳細は、英科学誌「Nature」系の光学に関する全般を扱う学術誌「Nature Photonics」に掲載された。

量子コンピュータのハードウェアは、複数の方式が考案されており、IBMやGoogle、インテルのほか、日本では理化学研究所などが研究を進めている超伝導を筆頭に、イオントラップやフォトニクス、シリコン電子スピン、トポロジカル、ダイヤモンド、そして分子研が手がける冷却原子などさまざまなものがある。

これらの方式の中で、最も研究が進んでいるといわれるのが超伝導方式で、同方式に関してはIBMが2022年後半に433量子ビットのプロセッサ「Osprey」を、2023年には1000量子ビットのユニバーサル量子プロセッサ「Condor」を発表するとしている。また、Googleも超伝導方式を採用し、2029年までに誤り訂正が可能な100万量子ビットの量子コンピュータを開発するという計画を発表済みである。

しかし、超伝導方式やイオントラップ方式は大きな課題を抱えているとされている。量子コンピュータで扱う、量子情報の最小単位である「量子ビット」の数を増やす際に、100量子ビットほどで頭打ちになると推測されているためだ(IBMは、2021年に発表した「Eagle」で127量子ビットを実現)。交通渋滞の解消や、流通における効率のいいルートの探索など、量子コンピュータを実際に社会問題を解決するのに利用できるようにするには、1000量子ビット以上が必要といわれており、超伝導方式やイオントラップ方式で、どのように1000量子ビット以上に到達させるのかは今のところ表立っては不明である。