盛り上がる量子コンピューティング研究

量子コンピューティングの話題があちこちで語られるようになってきており、NVIDIAは量子・古典コンピューティングを加速する「QODA」と呼ぶスーパーコンピューティング(スパコン)プラットフォームに関する記者発表を行った。スピーカーはNVIDIAのHPC & Quantum コンピューティング プロダクト担当ディレクターのTimothy Costa(ティモシー コスタ)氏である。

次の図の左のグラフは横軸が西暦の年、縦軸は有効なQubit数をプロットしたものである。プロットされた点は左下に塊となっている状況であるが、破線のようにQubit数が増えると、15~20年で実用的な問題が扱えるQubit数に達すると見られている。

右側の数字は量子コンピュータの研究開発状況を示すもので、22の国立の研究機関が量子コンピューティングの研究を行っており、2,100以上の大学や高等教育機関が研究を行っている。また、産業界では70%の企業が何らかの量子関係の研究を行っている。そして、250以上の量子関係のスタートアップ企業が立ち上がっている。

  • 量子コンピューティング研究機関の数

「cuQuantum」を2022年5月にリリース

NVIDIAは、2022年5月に量子ゲートのシミュレーションを行う「cuQuantumライブラリ」を整備して、正式の製品としてリリースした。State Vector法によるシミュレーションでも従来の解法と比べてかなり性能を引き上げ、さらにテンソルネットワーク法を使うと、5000量子ゲート程度の回路まで計算できるとのことである。これだけ性能が上がると、暗号解読などがやり易くなってしまうのではないかと心配になりところである。

次の図は、ちょっと資料の社名のロゴが読めない部分があるが、AWS、IBM、NERSCなどがcuQuantumのユーザに名前を連ねていることが分かる。

  • NVIDIA「cuQuantum」の活用ユーザー

次の図のように、大部分の実用的な量子計算は、スパコンのような古典的な数値計算と量子計算を交互に実行するハイブリッド計算となっている。

  • 古典・量子ハイブリッド計算のイメージ

このハイブリッド計算を行おうとする場合、古典計算と量子計算の間をつなぐ高性能のソフトウェアスタックが無く、性能上のボトルネックとなることが多い。また、ハイブリッド計算の知識を持ったドメイン科学者がいないという問題も出てくる。

この古典計算と量子計算を効率よく実行できるようにしようとするのが、今回、NVIDIAが発表したQODAである。

  • ハイブリッド計算におけるエコシステムのチャレンジ

古典と量子の計算のハイブリッドを可能とする「QODA」

QODAではNVQ++のようなコンパイラを使い、古典計算を行う部分と量子計算を行う部分に切り分けてコンパイルし、ハイブリッドの量子計算プログラムを作り上げる。そのため、ユーザがこの切り分けを行う必要が無く、両者をつなぐ部分もツールが作ってくれるので、実用的なハイブリッドプログラムを開発することが容易になる。

そして、QODAではエミュレートされた量子計算素子でも、物理的な量子計算素子でも扱うことができる。

  • NVIDIA「QODA」の概要

量子コンピュート素子の開発は複数のパートナーが担当

NVIDIAは自社では量子コンピュート素子を開発しておらず、これらのハードウェアの開発については、IQM、PASQAL、QUANTINUUM、QUANTUM BRILLIANCE、XANADUの各社とパートナー協定を結んでいる。

IQM社はフィンランドの会社で、IQMが中心となっているQ-Exaというコンソーシアムがドイツでスーパーコンピュータを作っているとのことである。そしてNVIDIAのCosta氏の説明ではSemiconductor Qubitを開発しているとのことである。NVIDIAとしては、QODAがすべてのタイプのQubitに使用できるように開発する必要があり、各種のQubitテクノロジを持つ会社をパートナーとして選んでいるという。

PASQAL社はフランスの会社で、超低温の原子を量子素子として使う量子コンピュータの開発を行っている。QUANTINUUM社はIon Trap型のQubitを使い、QUANTUM BRILLIANCE社はダイアモンド結晶のNV空乏を量子コンピューティング素子として使う。QUANTINUUMの量子ビットは、常温で動作するところが大きなメリットである。

XANADU社はフォトンを量子素子として使う。こちらも常温で動作するところが大きなメリットである。

また、NVIDIAは量子アルゴリズムについてはQCWARE社とZAPATA社と手を組み、スパコンセンタの技術についてはヨーロッパのJülich Supercomputer Center、米国バークレイのNERSC国立研究所、Oak Ridge国立研究所と手を組んでいる。

  • NVIDIA QODAプラットフォームのエコシステム

量子計算と古典計算のハイブリッドの処理はQODAで分解して処理される。

  • QODAにおける量子計算と古典計算の分解処理のイメージ

次の図の棒グラフは簡単な量子計算の性能を示す例であるが、横軸はQubit数で、これが20Qubitの場合、QODAで処理すると287倍の性能が得られたという。

  • QODAによる性能向上

ということで、QODAを使えば実用的に有用性が高いハイブリッドアプリケーションを処理することができるとNVIDIAは主張している。

  • NVIDIAの主張