産業技術総合研究所(産総研)は6月14日、従来は室温で動作していたために半導体スピン量子ビットの状態読み出しに1ミリ秒の時間を要していた電流計測回路を、絶対温度4K(約-269度)で動作するようにして、従来比100倍に高速化することに成功したと発表した。

同成果は、産総研 デバイス技術研究部門 先端集積回路研究グループの更田裕司主任研究員、同・部門 新原理デバイス研究グループの森貴洋上級主任研究員らの研究チームによるもの。詳細は、米国ハワイ州ホノルルで現地時間6月13日から始まった国際会議「2022 IEEE Symposium on VLSI Technology and Circuits(VLSIシンポジウム)」で発表された。

実用的な性能を持った誤り訂正型(汎用)量子コンピュータの実用化には100万超の量子ビットの集積が必要とされているが、現状は、そこまで到達できていない。また、演算の誤りを訂正しながら演算を実行することが求められるため、それぞれの誤り訂正には量子ビットのスピン緩和時間(数十マイクロ秒)内という高速な読み出し動作が求められていることとなる。しかし、現状では冷凍機内にある量子ビットと室温に置かれた測定器の間に長い配線を這わせる必要があり、そのため、およそ1ミリ秒ほどの時間が必要となっており、さらなる高速化が求められていた。

この課題を実現するため、「ゲートリフレクトメトリ」手法が提案されているが、回路規模が大きくなるため、多数の量子ビット読み出しに対応する集積化には課題が多いとされてきた。

そこで、集積化が容易な汎用半導体プロセスで読み出し回路を製造し、それを量子ビット近傍の極低温下で動作させることで、両者の距離を短縮し高速動作を実現する「クライオCMOS」技術が注目されるようになっている。

産総研では、これまで量子ビットの大規模集積化に向けた量子ビットの制御・読み出しなどに必要な極低温で回路を動作させるための集積回路設計技術、および冷凍機内でも正確に回路動作を検証・評価する技術の開発に取り組んできたほか、室温動作を前提としてさまざまなセンサ向け計測用集積回路の研究開発などを行ってきた。こうした取り組みを踏まえ、研究チームは今回、これまでに培われた回路設計に関する知見を応用する形で、低温で動作する量子ビット読み出し向けの電流計測回路を開発することにしたという。