実際には、宇宙論パラメータを変えた100通りほどの模擬宇宙を、NAOJ 天文シミュレーションプロジェクト(CfCA)が運用する天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイII」を使ってシミュレーションを実施。その結果をAIに学習させ、エミュレータが開発された。同エミュレータを使うことで、シミュレーションを実際に行わなくても、実施したのと同程度の精度で、模擬宇宙の計算ができるようになったという。

  • 今回開発された、ニューラルネットワーク(NN)による宇宙の構造形成の理論模型を高速かつ高精度で計算する手法の概念図

    今回開発された、ニューラルネットワーク(NN)による宇宙の構造形成の理論模型を高速かつ高精度で計算する手法の概念図。大規模構造の形成を再現するシミュレーション群をデータセットとしてNNに学習させることで、実際にはシミュレーションを行っていない宇宙論パラメータに対しても、大規模構造に広がる銀河分布の性質をシミュレーションと同等の精度で1秒以内に計算することができるという (C)KavliIPMU/国立天文台 (出所:NAOJ FfCA Webサイト)

そして同エミュレータを用いて、SDSSで得られた銀河の観測データからの宇宙論パラメータの推定が行われたところ、現在の宇宙における凹凸の度合いを表す宇宙論パラメータを、約5%の精度で測定することができたとする。これは、従来の解析方法では達成されていなかった高精度だという。

  • 宇宙論パラメータの測定の結果

    SDSSの3次元銀河地図データと、今回のニューラルネットワークに基づく方法の理論模型との比較から得られた宇宙論パラメータの測定の結果。横軸は現宇宙のエネルギーに対する物質(主にダークマター)の割合であり、縦軸は現宇宙の構造の凹凸の度合いを表す物理量(値が大きい宇宙ほど、多くの銀河が存在する宇宙に対応する)。薄い、濃い青色の領域は測定結果の68%、95%の信頼区間で、この領域のなかにそれぞれの確率で本当の宇宙の値が存在することを意味する。オレンジ色の領域は先行研究の結果 (C)小林洋祐(出所:NAOJ FfCA Webサイト)

近年、これまで定説とされてきたΛCDMモデルに綻びがある可能性が、複数の大規模観測の結果から指摘されつつあり、今回開発されたAIを用いた解析手法は、この指摘に対してこれまでとは異なる視点から答えを出せるものだと研究チームでは説明している。また、今後については、さらにエミュレータの精度を高めて、すばる望遠鏡において2024年から運用が始まる「超広視野多天体分光器(PFS)」を用いた観測による新たな銀河地図に用いることで、宇宙を特徴づけるダークマターの総量やダークエネルギーの性質の解明につながることが期待されるとしている。