デル・テクノロジーズは6月9日、昨年11月に開催された「中堅企業DXアクセラレーションプログラム」コンテストの入賞者の2回目となる中間報告会を開催した。

「中堅企業DXアクセラレーションプログラム」は、従業員1,000名以下の中堅中小企業が、IT技術を活用した社内の業務効率化やコスト削減、売上拡大などのビジネスプランを発表し、審査員により「実現可能性」、「新規性/優位性」、「継続性」、「発展性」、「経済性」の5つの評価基準により総合得点で競うもの。昨年の11月にコンテスト(本選)が実施され、1位~3位の上位入賞者、および特別賞(カゴヤ・ジャパン賞、ミライコミュニケーションネット賞)が選出された。

各受賞プロジェクトには、1年後の実現を目指し、奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)の研究員がメンターとしてビジネスプランの実装や定着化を支援するほか、デル・テクノロジーズや協賛するカゴヤ・ジャパン、ミライコミュニケーションネットからインフラ支援が受けられる。

活用するIT技術はAI、VR/AR (with 5G)、Edge Computingとなっている。

  • 中堅企業DXアクセラレーションプログラム」の概要

報告会の冒頭には、デル・テクノロジーズ 上席執行役員 広域営業統括本部長 瀧谷貴行氏が、「この3カ月は実証実験に向けた企画、実行、改良というフェーズだったと思うが、プロジェクトの今後を左右する非常に重要な局面ととらえている。どのようなデータを集め、どのように統合し、解析して期待の結果を得るか、という試行錯誤の3カ月ではなかったかと思う。本日は、どんな困難があり、それをどう乗り越えてきたのか、それによってどんな成果があったのかをみなさんにシェアいただけるとありがたい。3カ月後に本格実装することになるが、これからの3カ月はメンターと方と連携を密にして、仮説検証を繰り返して期待した精度までもっていけるかが勝負になる。今後は、実際の形になって動き出し、新たな気づきも出てくる。参加者の方は楽しんで進めてほしい」と挨拶した。

  • デル・テクノロジーズ 上席執行役員 広域営業統括本部長 瀧谷貴行氏

以下、各プロジェクトの中間報告を紹介する。

AIを活用した文章チェック - オンダ国際特許事務所

オンダ国際特許事務所 オンダテクノでは、AIを活用した文章チェックにチャレンジしている。日本に特許出願した文章を元に、外国に特許出願する場合、文章を英語に翻訳する作業が発生。翻訳する文章に、「主語が存在しない文章」や「両義文(複数の意味が存在)が存在する文章」が記載されている場合、文章の内容が理解しにくくなるため、AIで文章をチェックし、アラートメッセージを表示するようにする。

主語が存在しない文章に関しては、実際に業務で利用される1500件の文章をAIを活用した“文章チェック“を実施。その結果、人間がチェックすると主語が存在するが、AIがチェックすると主語が存在しないという事象が、7%~15%くらいの確率で発生したという。ただ、業務で実際に利用しても、利用者からの苦情がそこまでは発生しないだろうと思われるレベルだと考えらるため、次の3カ月で、既存の業務システムに組み込むことを目標に対応するという。

両義文が存在する文章をチェックする機能では、奈良先端大の大内先生に参加してもらい、大内先生に提供して頂いたプログラムで実現されている「Dependency Parsing as Head Selection 」という最近の仕組みを利用することで、対応中だという。6月~9月で、実際に業務で利用される文章でテストできる所までを目標に対応するという。

  • 両義文が存在する文章をチェックする機能の状況

また、人材育成も図り、「Python を使用したAI構築スキルの習得」 の内容でQCサークル活動を実施中で、インターネット上に掲載されていた155問の問題を解くことを実施中だという。

不動産データ基盤プロジェクト - サンフロンティア不動産

サンフロンティア不動産は、都心で中小型オフィスビルの内外装リニューアル工事を行い、不動産再生事業を行っている。

同社には、不動産再生事業に参戦するプレーヤーが増加し、競争が激化しているほか、データ分析ができず 、潜在的ニーズを捉えられていないという課題があるという。

そこで今回、現在の属人的な営業スタイルを脱却し、 積極的なデータの利活用により、顧客の潜在的なニーズを捉えたデータドリブン経営にシフトしようとしている。

賃料が高く募集期間が短い物件が付加価値の高い物件と定義し、賃料の決定要因を見つけようとしている。

具体的には、外部企業と提携し、外部データとして募集賃料、相場賃料、募集期間を抽出し、内部データの成約賃料、掲載情報作成日、募集賃料から、契約・物件・区画の各項目と募集・成約・相場賃料の相関、ならびに、募集・成約・相場賃料と募集期間の相関を分析した。

  • 賃貸構成要素

その結果、セットアップオフィスは一般オフィスより賃料が高い傾向がある、賃料と募集期間には正の相関が見られるということが分かったという。

今後は、今回分析した以外の項目も分析し、賃料は高いが募集期間が短い物件の特徴を導きだしていくという。

画像認識による検品 - 高圧化工

化粧品・健康食品の容器、検査器具等プラスチック製品の製造と販売を行う高圧化工では、製品の画像認識による検査の精度が低く、目視で異物混入、欠け、割れなどが無いかのチェックを行っている。そこで同社は、画像認識システムによる検品で、AI等最新の技術を使ってより精度を上げることを目標にしている。

現在同社は、画像検査装置を導入して不良の判定を行い数を絞った上で商品を目視で検査しているが、不良と判定するかどうかのしきい値を導きだすのに時間がかかっているので、プロジェクトでは、画像認識システムの判定条件として設定するパラメータ値をAIで導き出すことにチャンレンジしている。

具体的には、Pythonを用いた機械学習によって、設定の最適化による時間短縮と誤判定(数を絞る)による不良数の低減を目指す。

不良の判定はカメラに映った影の面積、長さ、幅等を計測し、不良として設定した値に当てはまるかどうかで判断している。

現在、不良項目を測定したデータをサンプルデータとして取り出し散散布図で表示することによって可視化している。今後は、さらにデータを分析するため、k最近傍法を用いて対象となる不良の点周辺のデータを抜き出す、また、各リザルトごとに分ける予想分類境界線を表示して特徴量などを見ていくことを行っていくという。

  • 現在の状況

ピッキング作業を効率化 - 水上

金物店への卸や住宅や建材メーカヘ製品や部品の供給を行っている水上は、多くの工程が人力による目視でのピッキングを行っており、工数とヒューマンエラーが発生している。

そこで、注文内容とピッキング商品の照合、注文内容とピッキング数の照合、注文内容と運送会社問い合わせ番号の紐づけをデジタル化する。

前回は注文内容とピッキング商品の照合は、注文内容の品番をバーコード出力し、それを、商品のバーコードと照合する方式を採用し、注文内容とピッキング商品の照合という課題を解決したが、現在は明細データをアプリ上で処理できる形式に変更し、アプリに読み込むことで紙は不要になっているという。さらに、数量を入力し、誤った数量が入力されている場合エラー警告文を表示することで、注文内容とピッキング数の照合の問題を解決した。

しかし、実際にユーザーテストをしてみると、ピッキング時間は変わらなかったという。ピックング初心者と熟練者には、3倍以上の時間の開きがあり、理由としては、熟練者はどの商品がどこにあるのかを記憶していおり、商品のサイズを見て瞬時に必要な箱の大きさを判別できることがわかったという。

  • 熟練者と初心者の作業時間の差

ただ、熟練者を育成するためには、時間がかかるため、誰でもできる環境にするために、まず棚番号を振ってみて、類似商品は近くに置かないようにして取り違いを防ぐなどの工夫を行った。今後は、アジャイルアプローチとPoC (概念実証)を繰り返してDXを進めるという

AKT Fighters - 日本AIコンサルティング

日本AIコンサルティングは、データ解析や人工知能の開発を行っており、人工知能では、「AKT」(アクト)という製品で、マウスやキーボード操作ログをAIで解析し、業務の自動化、習熟度の把握、人事評価・教育などを支援している。

今回はこの技術をeスポーツに適用し、選手の成長支援に生かしたいという。これによって、eスポーツの市場拡大を目指す。今回のプロジェクトでは、初級者を中級者にレベルアップするための支援を行うという。

題材は、League of Legends(以下、LOL)とするMOBAと呼ばれるジャンルのオンラインPCゲームでゲーム初心者が効率的にランク戦に参加できるレベル30に達するようにする。

具体的には、「初心者支援チェッカーくん」というルールを踏まえた操作か判定するアプリと、「成長支援ディスカバリー」という状況に応じた適切な操作かを判定するアプリを開発している。

  • 制作物の全体像

今後は、たくさんのデータを活用した実証に取り組み9月の完成を目指すという。

発表会の最後には、メンターを務める奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 特任助教およびdTosh 代表取締役社長 平尾俊貴氏が、「これまで技術的にうまくいかない点もあったと思うが、メンターにアドバイスをもらいながら解決できたのではと思っている。次の3カ月はプロトタイプを使って、どれだけの成果を出せるのかを定量的に出していくのが重要だ。とくに、業務改善や生産性向上を目指したプロジェクトにおいては、どれだけ工数やコストが削減できるのかを数字で出していくのが重要だ。プロセスマイニングなどを利用し、プロセスの中身をデータ化し、効果を算出していくことに着眼していってほしい」と語った。

  • 奈良先端科学技術大学院大学 特任助教およびdTosh 代表取締役社長 平尾俊貴氏