名古屋大学(名大)は5月31日、レーザーを用いて次世代パワー半導体であるGaNのウェハ基板をロスなく短時間でスライスする技術を開発したことを発表した。

同成果は、名大 未来材料・システム研究所の天野浩教授、同・田中敦之特任准教授、浜松ホトニクスの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に2本の論文が掲載された(論文1論文2)。

電力の効率的な利用に向け、次世代パワー半導体の活用が期待されている。中でもGaNは耐圧650V以下での活用が進みつつあるが、結晶成長が難しく、かつ結晶が硬い上にもろいため、加工が難しいことが課題となっている。

従来、GaN結晶からGaN基板を切り出す際には、ダイヤモンドなどをまぶした硬鋼線であるワイヤーソーを、張力をかけた状態で高速に動かしながら結晶に押し当てて切断する手法が用いられていた。しかし、GaNは加工しづらいため太いワイヤーを用いる必要があるほか、ワイヤーソーの特性上、切断時にワイヤーが通る部分の結晶が切りくずとなってしまい、素材ロスが発生。その分量は、切り出したい基板の厚さと同程度であるという。

こうしたロスを減らすことができれば、GaN基板の取れ数が増え、価格の低減を図ることができるようになる。そこで研究チームは今回、ワイヤーソーではなく、レーザーを用いてGaNをロスなく短時間でスライスする技術を開発することにしたという。

実際に開発されたレーザースライス技術は、GaNの「へき開」を利用するため原理的にはGaN結晶の無駄が生じないことが特徴だという。

  • 450μm厚の4インチGaN基板をレーザースライスしたもの

    450μm厚の4インチGaN基板をレーザースライスによって300μm厚と150μm厚にスライスした様子 (出所:名大プレスリリースPDF)

また、大きな振動やストレスを与えずにGaN結晶をスライスできるため、パワーデバイスを形成した後のGaN基板からデバイスを壊さずに薄く切り出すことも可能だともしている。

  • 4インチGaN基板のレーザースライス工程例

    4インチGaN基板のレーザースライス工程例 (出所:名大プレスリリースPDF)

さらに、今回の技術は、GaN基板の成形のみだけではなく、さまざまな応用が可能であり、例えばデバイス形成後の基板の薄化プロセスにも適用可能なため、GaNデバイスのさらなる高性能化、低価格化にも役立つことが期待されると研究チームでは説明している。

  • 今回開発された技術の特徴

    今回開発された技術の特徴 (出所:名大プレスリリースPDF)