この重力理論の中には、超弦理論で活発に議論をされてきた「AdS/CFT対応」の例を示す理論も含まれており、これまでのさまざまな理論的予言の検証にも役立つと期待されると研究チームでは説明する。AdS/CFT対応は、超弦理論において長く研究されてきた仮説であり、負の宇宙項を持つ「反ドジッター(AdS)空間」を記述する量子重力理論は、1次元低い次元の平坦な時空での物質場の「共形場理論」(CFT)と等価であるという内容ものである。
またビッグバン宇宙が始まる前にあったと考えられている、インフレーション期(宇宙はビッグバンで始まったというのは正確な表現ではなく、誕生した直後にインフレーションで急激に膨張してその後にビッグバンとなったと考えられている)のドジッター時空に関する謎に関しても、この宇宙シミュレータを使った実験は重要な知見を与えることが考えられるとしている。
例えば、時間の経過とともに指数関数的に加速膨張する宇宙では、ブラックホールと同様の地平面が現れ、ブラックホールから熱が放射される「ホーキング輻射(放射)」が出てくることが、故スティーブン・ホーキング博士らによって予言されていた。
今回、同じ現象が膨張する量子ホール系でも起き得ることが理論的に示されたとするほか、その量子的なホーキング輻射が古典的な密度揺らぎに転化して、現在の宇宙の構造を作る種となる過程を実験検証できる可能性もあるとする。
なお、今回理論提案された実験の主な部分は、半導体などを用いた既存技術で十分実行可能であることが考えられると研究チームでは説明しており、今後は、今回発表された理論をもとに、ホーキング輻射や宇宙の構造形成に関する理論を実験によって検証する予定としているほか、量子重力理論を検証するための量子測定の理論構築および実験検証に取り組んでいく予定ともしている。