NetAppは2月24日および25日、データ活用デジタルイベントとして「NetApp INSIGHT Japan 2022 Digital」を開催中だ。本稿では、「MEET THE SPECIALISTS」をテーマに開催された同イベントのキーノートセッションの模様をお届けしよう。

冒頭、ネットアップ日本法人の代表執行役員社長である中島シハブ・ドゥグラ氏は「2日間にわたるこのイベントでは、『データ活用の第一歩はデータガバナンスである』ということを念頭に置きながら参加してほしい。このメッセージのもとで、ぜひ皆さんのデータファブリックを構築してください」と述べて、イベントの開幕を宣言した。

  • ネットアップ 代表取締役社長 中島シハブ・ドゥグラ氏

「ビジネス成功の鍵はデータ活用」NetApp CEO ジョージ・クリアン氏

最初に紹介するのは、NetApp CEOであるジョージ・クリアン氏が「ネットアップのグローバル戦略と日本への期待」と題して同イベントに寄せたメッセージだ。

  • NetApp CEO ジョージ・クリアン氏

新型コロナウイルスは私たちの生活を大きく変えた。例えば、新型コロナウイルスが、グローバルレベルでDX(デジタルトランスフォーメーション)を加速させるきっかけになったのは間違いないだろう。「変化は困難なものだが同時にチャンスの窓を開くものでもある。今回のイベントでは、さまざまな立場の人がどのように困難をチャンスに変えてきたか紹介したい」とクリアン氏は述べた。

ビジネスの観点では、ハイブリッド・デジタルとデータドリブンの未来に向けて、世界はさらに加速していると同氏は見ている。今後のビジネスはリアルとデジタルのハイブリッド型に変化するとのことだ。

マッキンゼーの調査によると、企業は顧客やサプライチェーンとのやり取りのデジタル化を3年から4年程度前倒しで進めているという。また、ガートナーは、昨年末までに事務職の51%がリモートで仕事をするようになったとしており、これらを踏まえて「勝ち組企業はあらゆる業界でデータを活用しビジネスの変革を進めている」とクリアン氏は話した。

クリアン氏が考えるハイブリッド型デジタルビジネスの新ルールは以下の通りだ。 第一に、スピードが新しい指標となる。従来の指標であったビジネスの規模に代わり、スピードが事業優位性の基準になるとのことだ。

第二のルールは柔軟性だ。現代では企業が世の中を変革するだけでなく、世の中が企業を大きく変える時代となった。先進的な企業は柔軟に対応可能な複数の未来像を計画し、IT環境も同様に整備するべきだという。

第三のルールは、企業は従業員が迅速に行動できるよう支援しながらも、ビジネスに責任を負う姿勢を示せるように高い信頼性を持つ文化を醸成するべきとしている。最後のルールは、クラウド、ソフトウェア、AI、データが現代のデジタルビジネスの基盤になるだろうということだ。

これらのルールの上に立ち、ジョージ クリアン氏は以下の3つの提言を示した。

第一の提言は「ビジネス戦略の観点からデジタルとクラウドに積極的になること」だ。たとえ既存のビジネスを破壊することになろうとも、確実にインパクトをもたらすビジネスに着手すべきだという。それには、デジタル組織を作り、戦略やオペレーションモデルに柔軟性を持たせるのがよいという。

第二の提言は「ITポートフォリオとプラットフォームの変化」だ。クラウドを活用すると同時にデータ管理を統合し簡素化するべきとのことだ。

第三の提言は「クラウドネイティブになること」である。クラウドネイティブな働き方へと変化することで、新機能を投入するまでの時間が従来と比較して40%から55%程度短縮された調査結果もあるという。コードを本番環境に導入するまでの時間も同程度に改善され、システムのダウンタイムが60%近く短縮された例もあるそうだ。

「今後はGXの観点からもデータ活用が必要になるだろう」ネットアップ 代表執行役員社長中島シハブ・ドゥグラ氏

続いて、中島シハブ・ドゥグラ氏が「データ活用のその先に」をテーマに、データガバナンスに必要な対策を説明した。

同氏は講演の冒頭に、「あなたは、会社のデータ管理・活用方法を明確に説明できるだろうか?」と参加者に質問を投げかけた。正確に答えられる人は多くないだろう。こうした点が、データのサイロ化が発生する原因になっているのだという。

「デジタルファースト」という考え方が広がるにつれて、各企業におけるデータの重要性が変化しつつある。デジタルファーストを実践する企業は、CX(Customer Experience:顧客体験)やEX(Employee Experience:従業員体験)などを改善するためにデータを活用している。

「今後はビジネスの成果に加えて、GX(Green Transformation)の観点からもデータ活用が必要になるだろう」(中島シハブ氏)

企業がデジタルファーストを実践する際には「ITガバナンス」「セキュリティ」「データ管理」が特に関心の高いテーマになるだろう。「特にデータ管理においては、データの保管場所に加えて、災害対策やバックアップ体制などデータの保護方法、およびコンプライアンスが大きな懸念に挙げられる」と中島氏は述べた。

ネットアップでは以前より、データファブリックの概念を提唱してきた。データファブリックとは、クラウドやオンプレミス、エッジデバイスにまたがるデータ管理と、ガバナンスおよびコストの最適化を標準化する統合データアーキテクチャを指す。企業のデータセンターにクラウドのシンプルさと柔軟性をもたらすとともに、パブリッククラウドにエンタープライズの堅牢性をもたらすという。

「データファブリックは、ハイブリッドクラウドの最新トレンドになりつつある。データファブリックを構築する最大のメリットは、オンプレミスの利点とクラウドの利点を最適に利用できることだ」(中島シハブ氏)

例えば家電や自動車などの製造業では、さまざまなアプリケーションでデータが管理されている。販売データや設計データ、マーケティングデータ、人事データなどが分散し、異なる環境やセキュリティレベルで複雑に管理されている。データファブリックでは製品戦略や生産計画の向上に加えて、DXのみならずCX、EX、GXにも寄与できるという。

同氏は、「データ活用の第一歩はデータガバナンスである」と再度強調し、「どのようにガバナンスを取るかは各企業によって異なるが、データファブリックがデータガバナンスの基盤になるだろう」と話していた。

「現在、低所得国に住んでいるのは全人口の何%か?」オーラ・ロスリング氏

続いては、『FACTFULNESS』の共同著者であるオーラ・ロスリング氏のゲストセッションをお届けする。同氏が日本で講演を行うのは、今回が初めての機会とのことだ。

  • オーラ・ロスリング氏

さて、過去200年を振り返ると世界の多くの国は貧しく、現在よりも寿命が短かった。現在は200年前と比べて多くの国が豊かになり、寿命も延びているのは想像に難くない。

30年前、世界の全人口のうち58%が低所得国に住んでいた。では、現在の比率はどうだろう。9%に大きく減少したのだろうか、37%とわずかな減少にとどまるだろうか。もしくは61%に増えているのだろうか。

30年の間に多くの国で平均寿命が70歳を超え、教育を受けるようになり、少しずつ収入が増えている。世界の全人口のうち低所得国に属する人は9%まで減少した。人類の大半は教育を受けており、一次医療があり、水や電気などのインフラに頼ることができている。「だが、ほとんどの人はその事実を知らない」とロスリング氏は述べた。

上記の質問に対する日本人の正解率はわずか6%だ。仮にチンパンジーに対して同じ質問をしたならば、ランダムに回答することが想定されるため正解率は33%となるはずという。チンパンジーよりも低い正解率となってしまう裏には「思い込み」があり、こうした思い込みは、国を問わずに同様の結果であるとのことだ。

注目すべきことに、世界の44%の人が「低所得国に住む人は世界の61%に増加している」と回答した。「低所得国」と聞くと発展途上国を想像し、数が多いと予想するのだという。

そこでロスリング氏は「直感と現実には大きなギャップがあることを学ぶべきだ。両極端な2点の間に多数派がいることを知らなければいけない」と述べた。私たちが世界のほかの国について知るのは紛争や大きな地震、難民問題、エボラ出血熱が発生した場面などで、これらと比べると、日常について知る機会は多くない。

「われわれは非常にゆがんだレンズを通して世界を見ているのです」(オーラ・ロスリング氏)

これからの世界で生きていくために、「まずは今あるデータを全て使ってみることから始めてみましょう」とロスリング氏は提案した。現代の人類はかつてないほど豊富なデータを手に入れている。さまざまな統計データを利活用できる環境ができつつあるのだが、人類はデータを使う習慣を身に着けてこなかったのだという。

ロスリング氏らが運営するNPO「Gapminder」では、上記のような問題を学べる資料を公開し、無料で回答可能なファクトテストを公開している。この機に体験してみるのも良いだろう。