東京工業大学(東工大)は2月15日、高いスピン流生成効率と高い熱耐久性を両立するハーフホイスラー型トポロジカル半金属(HHA-TSM)の一種である、イットリウム・プラチナ・ビスマスからなる「YPtBi」薄膜の作製およびその動作実証に成功したことを発表した。
同成果は、東工大工学院 電気電子系のファム・ナムハイ准教授、同・白倉孝典大学院生、キオクシア メモリ技術研究所 デバイス技術研究開発センターの近藤剛主幹らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
不揮発性メモリはさまざまな種類が開発されているが、IoT社会におけるデータ爆発時代に向け、より高速かつ大容量なものの開発が求められている。その1つである磁性体を利用した不揮発性メモリは、磁性体の磁化の向きを電子のスピン角運動量の流れであるスピン流で制御することによって動作し、現状、そのスピン流の生成には磁性体に電流を注入してスピン偏極電流を生成する「スピン移行トルク(STT)方式」が用いられている。
しかし、スピン流の生成効率が小さく、磁化制御のために大電流を要するという課題があることから、近年、制御対象の磁性体に接合した非磁性体に電流を注入し、スピンホール効果を介して純スピン流を生成する「スピン軌道トルク(SOT)方式」が注目を集めるようになっているという。
SOT方式で重要となるのが、純スピン注入源に用いる非磁性体であり、スピン流生成の観点から非磁性体は大きなスピンホール角θSHを有していることが望ましいとされ、これまでWやTaといった重金属や「トポロジカル絶縁体」が研究されてきたが、重金属はθSHが0.1~0.4と小さいという課題があり、一方のトポロジカル絶縁体には、θSHが1を超すものがあるものの、熱耐久性が300℃と低く、半導体プロセスに対する親和性が低いという課題があったという。
そこで研究チームは今回、この課題を解決するため、ハーフホイスラー構造を有する3元合金で、トポロジカル絶縁体と同様、スピンホール効果の強いトポロジカル表面状態(TSS)を有するHHA-TSMの一種であるYPtBiに着目。スピン伝導特性の評価を行うため、スパッタリング法を用いてYPtBi膜とコバルトとプラチナの強磁性体「CoPt」膜のヘテロ接合膜を作製し調査したところ、CoPt膜に強い垂直磁気異方性が示されたとするほか、YPtBiの成膜条件を最適化することで、最大4.1というθSHを実現するしたという。
また、これらヘテロ接合膜を用いて、パルス電流による磁化反転実験を行ったところ、効率よくCoPtの磁化反転が確認できたとするほか、外部磁場を反転させることにより、磁化反転の方向が反転するというSOT方式の典型的な振る舞いも確認されたとする。
これら結果は、YPtBi膜はその巨大なスピンホール角により、重金属よりも1桁小さな電流密度でCoPt膜の磁化反転を可能とするスピン流が生成できることを示すものであり、研究チームでは、今後、YPtBiを利用したさまざまな超低消費電力な不揮発性メモリの研究につながることが期待されるとともに、ほかのHHA-TSMを用いた材料研究の発展につながることが期待されるとしている。